「……ぇ?」

 目を開ければ、アンティーク調な部屋の中で立っていた。

 両脇へ並ぶ棚に、ズラッと並んでる(びん)は何だ?

 まるで星々の(きら)めく宇宙みたいなものが、瓶の中に閉じ込められてる。

 その最奥、木製のレジ台 のような場所には――顔の上半分を白い仮面で覆う、黒い(えん)()(ふく)の怪しい男がいて……。この空間全体、現実感がない。

 僕は、遂におかしくなってしまったのか? そうか、それしかない。

 「私の名前は、カササギ。趣味のコレクションを兼ね、とある店を営んでおる者です」

 「……店って、そんなのは、どうでもいい」

 「おやおや? 本当に、そうでしょうか? 現状、名前負けも(はなは)だしい(そら)()(ゆう)(せい)さん」

 何で僕の名前を知ってるのか。

 そんなことを問う気力すら湧かない。

 「そもそも闇のような絶望を抱き、執念や(おん)(ねん)にも至る程に(ほっ)するものがなければ、この店への扉は開かれないのですがねぇ?」

 (うつむ)くと、木製の床にポタポタと()みが滲むのが見えた。

 彼女を想い落ちた、僕の涙か……。

 「私は人生の美しさを封じた瓶を求めております。取引という手法でねぇ。空知さん。あなたが求めておられるものは、何でしょうか?」

 こんな無駄話をしている間にも、彼女は……。

 きっと今頃は、もう――この世にいないはずだ。

 ここに並ぶ瓶の中身みたく、夜空に輝く星になってるだろう。

 それなら

 「……僕には、欲しいものなんて何もない」

 もう生きることに、意味も理由も感じない。

 ツカツカと床を踏み鳴らす音が次第に大きくなり、俯く視界に革靴が映る。