最後にヨットハーバーイルミネーションも見ていこうという流れになった。
真っ暗な海にイルミネーションをつけたヨットか。無料で見られる場所だな。
さっきの有料エリアの方が綺麗なのではとか思うけど、結姫が行きたいなら従おう。
「波でイルミネーションが揺れてるの、めっちゃ綺麗! ここも素敵~!」
並べられたヨットの帆や結ぶ紐とかに、大量のイルミネーションが灯ってる。
確かに。波で光が揺れるのは、固定されてる明かりより綺麗かもしれない。
「一緒に記念写真撮ろうよ!」
そう言えば、見とれるばっかりで写真は全然撮ってなかった。
スマホをインカメラにして手を前に出しては、違うなと首を傾げてる。
「自撮りで撮りたいの?」
「どうせなら全身で写りたいな。惺くんと身長差ありすぎて、上からじゃ写りがね?」
「無駄に身長が高くて、ごめんね」
僕が撮ろうかと提案するより前に、結姫はキョロキョロと辺りを歩きだした。
「どこがベストスポットかな~」
撮影方法より、まずはどこで撮るかを探し始めたらしい。
このマイペースさも、結姫らしくて微笑ましいな。
結姫の後ろをついていくと、ベンチに一人で腰かけてる男の人が横目に映った。
一人で黄昏れてるのか、スマホを見つめてる。服装的には……大学生ぐらいかな?
男の人が持つスマホのディスプレイに、パッと目がいってしまった。
冬の海辺には似つかわしくない、向日葵畑の写真だ。
綺麗だけど、どうしてここで向日葵畑の写真を見てるんだろう?
何かあったのかな……。
心の内でそう考えてるだけの僕と、結姫は違う。
好奇心を抑えられないのか
「うわぁ~っ! 綺麗な向日葵畑! 写ってるのは彼女さんですか!?」
「……ぇ?」
「写真撮るの、上手いんですね! 凄く綺麗な写真!」
「あ、あぁ……。その、僕は昔から、それだけを勉強してきたので」
止める間もなく結姫は男の人に声をかけてた。本当に人懐こいな。
まるで知り合いと話すかのように声をかけ、気が付けば友達になってる。
それが昔から結姫の魅力で特技でもあるんだってこと、改めて実感させられたよ。
僕なら初対面の年上になんて、声かけられない なぁ。
「へぇ~写真の勉強、凄いですね! よかったら、私たちも撮ってくれませんか!? この人と一緒に写りたいんです!」
「僕が、ですか? どうしようかな……。人はそんなに上手く撮れないと思うんです。昔から、ずっと風景写真ばかりを撮ってきたから」
「大丈夫ですよ! だって彼女さん、最高にキラキラ写ってましたから!」
「……そう、見えたんですね」
何で、そんなに儚く微笑むんだろう。
もしかして、悪いことを聞いちゃったのかな?
迷惑だったら申し訳がないけど……。
「と、突然すいません。この子、自由奔放で……。ただ、できるだけ願いは叶えてあげたくて、ですね? その、一枚だけでも、お願いできませんか?」
「……分かりました。僕でよければ」
男の人は自分のスマホを宝物のようにポケットへしまうと、結姫のスマホを受け取った。
随分と本格的に「折角だから、構図は背景を活かしたいな」と、歩き回っている。
いい位置が決まったんだろうか。スマホをこちらへ向け頷いた。
「ほら、惺くん! もっと寄って、屈んで!」
「ちょ、ちょっと。結姫、慌てないでよ」
小さな結姫が、溌剌とした声でグイグイと僕を引っ張る。
そんな僕らの様子を見ていた男の人は――凄く驚いたかのように目を丸くしてる。
一体、どうしたんだろうか?
「あの……」
「あ、すいません。それじゃ、構図も決まったので……。撮りますよ」
僕が声をかけると、ハッとした様子で再びスマホへと目を移した。
結姫に導かれるまま何となしにスマホへ視線を向け、フラッシュが焚かれた。
無事に撮れたのか、男の人は頷きながらこちらへ歩み寄ってくる。
手渡されたスマホのディスプレイに写る写真を見て、思わず目を奪われてしまった。
「うわぁ! すっごい、写りがいい! イルミネーションも綺麗だし、味がある写真だ~! お兄さん! やっぱり人を撮るのも上手じゃないですかっ!」
「本当に……。心に沁みるっていうか……。暗い海と夜空のお陰でイルミネーションと結姫の笑顔が何倍も際立ってる」
「惺くん、本当のこと言わないの! 照れるでしょ~!」
白い息をハァハァ吐き出しながら、結姫は嬉しそうに肘でお腹をツンツンと突いてくる。
痛いけど、飽きるまでマイペースな結姫の好きにさせるしかないかな?
ふと見れば、僕らの前で立ち尽くしていた男の人の瞳が――潤んでいた。
え……。まさか、泣いてる? な、何で?
「わ、私、変なこと言っちゃいました? あ、あの、大丈夫ですか? 涙が……」
「……ぇ?」
「嫌な思いをさせたなら僕が謝りますので……。本当に、ご迷惑をおかけしました」
「あ、ああ。いえ、すいません。これは、違うんです。懐かしくて、心にきて……」
懐かしくて……。
一人でイルミネーションばかりの場所で黄昏れてたことから、口にし難い何かがあったのかもしれない。
「……君たちは、昔の僕たちと似てるのかもしれませんね」
男の人は、優しい笑みを浮かべながら言った。
「僕たちが、あなたたちと似てる、ですか?」
この人だけじゃなくて、複数?
誰のことを指してるのか、どういうところが似てるのか。
よく分からないけど……。凄く真剣な瞳だ。
「はい。真逆な二人だと大変なこともあるかもですが、発見も多いと思うんです」
「発見というか、救われることは多いですね」
「もう、惺くん! お互い様だよ?」
「どうか後悔や心残りがないよう、大切に生きてくださいね」
僕にとっての後悔や心残りは、何だろう?
すぐ思いつくのは結姫に余命を渡せないで取引契約を打ち切られることだけど……。
後悔や心残りがないよう、大切に生きる。
何故か、この人の言葉はズシンと響く。
詳しく、どういう意味で言ったのか聞きたいけど――
「――お~い、お待たせ! 何やってんだ? 龍恋の鐘、最高だったぞ!」
「寒いし、そろそろ帰ろうよ! 早く来ないと、ウチらに置いてかれるよ?」
遠くから体育会系にいそうな、元気な男女の声が聞こえてきた。
その声に写真を撮ってくれた男の人は――朗らかな笑みの浮かぶ顔を振り向かせた。
「ああ、うん。今行くよ! ごめんなさい友達が待ってるので。頑張ってくださいね」
真逆だからこそ、大変なこと。
まさか……実は結姫が心から笑えてない、とか?
あの瓶の中の輝きと、人の生き方。
結姫と帰りながら、彼の言葉の意味を考え続けても答えは出なかった――。
真っ暗な海にイルミネーションをつけたヨットか。無料で見られる場所だな。
さっきの有料エリアの方が綺麗なのではとか思うけど、結姫が行きたいなら従おう。
「波でイルミネーションが揺れてるの、めっちゃ綺麗! ここも素敵~!」
並べられたヨットの帆や結ぶ紐とかに、大量のイルミネーションが灯ってる。
確かに。波で光が揺れるのは、固定されてる明かりより綺麗かもしれない。
「一緒に記念写真撮ろうよ!」
そう言えば、見とれるばっかりで写真は全然撮ってなかった。
スマホをインカメラにして手を前に出しては、違うなと首を傾げてる。
「自撮りで撮りたいの?」
「どうせなら全身で写りたいな。惺くんと身長差ありすぎて、上からじゃ写りがね?」
「無駄に身長が高くて、ごめんね」
僕が撮ろうかと提案するより前に、結姫はキョロキョロと辺りを歩きだした。
「どこがベストスポットかな~」
撮影方法より、まずはどこで撮るかを探し始めたらしい。
このマイペースさも、結姫らしくて微笑ましいな。
結姫の後ろをついていくと、ベンチに一人で腰かけてる男の人が横目に映った。
一人で黄昏れてるのか、スマホを見つめてる。服装的には……大学生ぐらいかな?
男の人が持つスマホのディスプレイに、パッと目がいってしまった。
冬の海辺には似つかわしくない、向日葵畑の写真だ。
綺麗だけど、どうしてここで向日葵畑の写真を見てるんだろう?
何かあったのかな……。
心の内でそう考えてるだけの僕と、結姫は違う。
好奇心を抑えられないのか
「うわぁ~っ! 綺麗な向日葵畑! 写ってるのは彼女さんですか!?」
「……ぇ?」
「写真撮るの、上手いんですね! 凄く綺麗な写真!」
「あ、あぁ……。その、僕は昔から、それだけを勉強してきたので」
止める間もなく結姫は男の人に声をかけてた。本当に人懐こいな。
まるで知り合いと話すかのように声をかけ、気が付けば友達になってる。
それが昔から結姫の魅力で特技でもあるんだってこと、改めて実感させられたよ。
僕なら初対面の年上になんて、声かけられない なぁ。
「へぇ~写真の勉強、凄いですね! よかったら、私たちも撮ってくれませんか!? この人と一緒に写りたいんです!」
「僕が、ですか? どうしようかな……。人はそんなに上手く撮れないと思うんです。昔から、ずっと風景写真ばかりを撮ってきたから」
「大丈夫ですよ! だって彼女さん、最高にキラキラ写ってましたから!」
「……そう、見えたんですね」
何で、そんなに儚く微笑むんだろう。
もしかして、悪いことを聞いちゃったのかな?
迷惑だったら申し訳がないけど……。
「と、突然すいません。この子、自由奔放で……。ただ、できるだけ願いは叶えてあげたくて、ですね? その、一枚だけでも、お願いできませんか?」
「……分かりました。僕でよければ」
男の人は自分のスマホを宝物のようにポケットへしまうと、結姫のスマホを受け取った。
随分と本格的に「折角だから、構図は背景を活かしたいな」と、歩き回っている。
いい位置が決まったんだろうか。スマホをこちらへ向け頷いた。
「ほら、惺くん! もっと寄って、屈んで!」
「ちょ、ちょっと。結姫、慌てないでよ」
小さな結姫が、溌剌とした声でグイグイと僕を引っ張る。
そんな僕らの様子を見ていた男の人は――凄く驚いたかのように目を丸くしてる。
一体、どうしたんだろうか?
「あの……」
「あ、すいません。それじゃ、構図も決まったので……。撮りますよ」
僕が声をかけると、ハッとした様子で再びスマホへと目を移した。
結姫に導かれるまま何となしにスマホへ視線を向け、フラッシュが焚かれた。
無事に撮れたのか、男の人は頷きながらこちらへ歩み寄ってくる。
手渡されたスマホのディスプレイに写る写真を見て、思わず目を奪われてしまった。
「うわぁ! すっごい、写りがいい! イルミネーションも綺麗だし、味がある写真だ~! お兄さん! やっぱり人を撮るのも上手じゃないですかっ!」
「本当に……。心に沁みるっていうか……。暗い海と夜空のお陰でイルミネーションと結姫の笑顔が何倍も際立ってる」
「惺くん、本当のこと言わないの! 照れるでしょ~!」
白い息をハァハァ吐き出しながら、結姫は嬉しそうに肘でお腹をツンツンと突いてくる。
痛いけど、飽きるまでマイペースな結姫の好きにさせるしかないかな?
ふと見れば、僕らの前で立ち尽くしていた男の人の瞳が――潤んでいた。
え……。まさか、泣いてる? な、何で?
「わ、私、変なこと言っちゃいました? あ、あの、大丈夫ですか? 涙が……」
「……ぇ?」
「嫌な思いをさせたなら僕が謝りますので……。本当に、ご迷惑をおかけしました」
「あ、ああ。いえ、すいません。これは、違うんです。懐かしくて、心にきて……」
懐かしくて……。
一人でイルミネーションばかりの場所で黄昏れてたことから、口にし難い何かがあったのかもしれない。
「……君たちは、昔の僕たちと似てるのかもしれませんね」
男の人は、優しい笑みを浮かべながら言った。
「僕たちが、あなたたちと似てる、ですか?」
この人だけじゃなくて、複数?
誰のことを指してるのか、どういうところが似てるのか。
よく分からないけど……。凄く真剣な瞳だ。
「はい。真逆な二人だと大変なこともあるかもですが、発見も多いと思うんです」
「発見というか、救われることは多いですね」
「もう、惺くん! お互い様だよ?」
「どうか後悔や心残りがないよう、大切に生きてくださいね」
僕にとっての後悔や心残りは、何だろう?
すぐ思いつくのは結姫に余命を渡せないで取引契約を打ち切られることだけど……。
後悔や心残りがないよう、大切に生きる。
何故か、この人の言葉はズシンと響く。
詳しく、どういう意味で言ったのか聞きたいけど――
「――お~い、お待たせ! 何やってんだ? 龍恋の鐘、最高だったぞ!」
「寒いし、そろそろ帰ろうよ! 早く来ないと、ウチらに置いてかれるよ?」
遠くから体育会系にいそうな、元気な男女の声が聞こえてきた。
その声に写真を撮ってくれた男の人は――朗らかな笑みの浮かぶ顔を振り向かせた。
「ああ、うん。今行くよ! ごめんなさい友達が待ってるので。頑張ってくださいね」
真逆だからこそ、大変なこと。
まさか……実は結姫が心から笑えてない、とか?
あの瓶の中の輝きと、人の生き方。
結姫と帰りながら、彼の言葉の意味を考え続けても答えは出なかった――。