結姫は、「まだ惺くんに謝ってもらってない」と暴れてるけど……。

 もう充分に離れただろう。

 しばらく走った頃には、結姫も僕も膝に手を突いて、肩で息をしていた。

 走ったことで、少しは結姫もストレスが紛れただろう。

 「おしゃれな場所は、僕に不釣り合いだったね。結姫まで変な目で見られて、ごめん」

 「またマイナスなことを口にする~! 何度でも言うけど、そんなことないよ!」

 結姫の隣に、僕みたいな地味で能がない男が釣り合わないのは事実だろうに。

 本来、結姫みたいな子の隣には輝明みたいな人がお似合いなんだ。

 客観的な人の目って、正直だよね……。

 それでも結姫が喜んでくれるなら、僕はどうでもいいんだ。

 「いつもマイナスなことばっかり言って、ごめんね。暗いのは、もう(さが)だからさ」

 「大丈夫、私が変えてみせるから!」

 「……うん」

 自分では、想像もつかない。そもそも、いつの間にか笑い方も遊び方も忘れてた。

 あの噂をしてた人たちの言葉を、僕には否定できない。

 今の僕に大切なのは、結姫の笑顔を引き出して長生きしてもらうことだけだ。

 気を取り直して、イルミネーションへ向かい歩く。

 まだ不満そうな結姫だったけど

 「わぁっ! すっごい、めっちゃ綺麗だよ!」

 LEDで彩られたイルミネーションのトンネルを見るなり、瞳をキラキラ輝かせた。

 「本当に、眩しいぐらい綺麗だ」

 暗い病室じゃなくて、彩られた輝く世界で君が笑ってる。

 夜闇を彩るイルミネーションに、笑顔。

 ああ……。カササギが美しい輝きをコレクションしたがる理由も分かる。

 これは、一生見ていたくなる程に尊いものだ。

 「あれがシーキャンドル!? 今の私の身体なら耐えられる、よね? エレベーターで上ってる最中に意識失わないかな?」

 エレベーターが動いたり止まる瞬間のふわっとした感覚の時、結姫は血圧の急激な変化 で気を失ったことがある。

 それが今でも、トラウマのように心へ焼きついてるんだろう。

 「今なら、大丈夫だよ」

 不安そうにした結姫だけど、キュッと唇を引きしめて笑みをつくった。

 過去に実際倒れた経験で怖くて仕方ないはずなのに、君は痛々しい程に強くあろうとするね……。

 『涙を流したら、弱さも溢れ出しちゃう。それに周りも嫌な空気にさせちゃうでしょ? そんなの絶対に嫌! 私は最期まで私らしくいるからね!』

 過去に結姫が言った言葉が、頭に浮かぶよ。

 だけど、今は大丈夫。 健康な身体に戻ってるんだから。

 階段で上る方法もあるけど、結姫はあえてエレベーターへ向かっていった。

 挑戦を諦めない、負けず嫌いな結姫らしいなぁ……。

 震える結姫は僕の着てるコートの(すそ)を握りながら、ゆっくりとエレベーターに乗る。

 不安そうにギュッと目を(つむ)ってる中、エレベーターが動き始めた。