弾む声で、そう言った。

 そうか……。結姫は、このところ入退院が多かったからな。

 授業は飛び飛びで聞くことになって、理解できず苦々しい思いもしてたのかも。

 受験生の夏。

 周りから置いていかれる状況なら、一番の願いがそれでもおかしくはないか。

 「分かった。僕が使ってた参考書とか、受験で出た問題を――」

 「――直接、惺くんに家庭教師を頼んだら……さすがに迷惑、かな?」

 「……ぇ?」

 結姫の家庭教師に、僕が?

 僕の家に来るにしても、結姫の家に行くにしても……。

 いくら幼馴染みとはいえ、異性だ。頻回に長時間過ごすのは、どうなんだろう?

 それに僕は、受験にも失敗して皆を裏切り続けてきた人間なんだぞ?

 おばさんや、おじさんが心配して、結姫にも嫌な思いをさせるかも……。

 目線を二人へ向けると

 「優惺くんの家庭教師とは、ラッキーだな」

 「ええ。色んな意味で良かったわね、結姫」

 「うん! 最高!」

 予想外に好反応だった。

 二人とも、人が好すぎるよ。警戒とか、しないのかな?

 「あの……」

 「あ、もちろんだがね、優惺くん。迷惑だったら、断ってくれていいからな」

 「時給は払うわよ? アルバイトと思ってね。私たちも結姫の望むことをしたいから」

 「あ、いや。迷惑なんかじゃありません。お金も結構ですので。……僕も結姫の望みを叶えたいですから。僕でいいなら、全力でやらせてください」

 結姫や家族がいいなら、僕に断る理由はない。

 他ならぬ結姫が望むことなんだから。実力が不足していようと、頑張るしかない。

 絶対に、結姫が笑える未来に繋げてみせる。絶対にだ。

 「やった、決まりだね! 安心した~。これで惺くんと一緒に高校生活が送れるね!」

 来年も、再来年も、将来にわたって、もう病気に悩まされないと結姫は信じてる。

 だけど、僕は知ってるんだ。

 対価を払えなくなれば――ここにいる結姫は、瞬く間に死の瀬戸際に逆戻り。

 来年の七夕にカササギが契約を更新してくれなければ、一年限定の命だ。

 そんなことは、絶対にさせない。させてたまるか。

 無事に契約を更新してもらえれば、来年こそ結姫は僕の代わりに生き続けることができるように交渉する。僕は死ぬことになるけど、結姫のためなら問題ない。

 受験が終わったら、結姫が本気で笑える場所に行く必要もあるな。

 どこに行くにしても、お金はいる。アルバイトも始めよう。

 「僕、頑張るから。結姫は、沢山笑ってね」

 「え? 私も当然、頑張って受験勉強するよ?」

 「……そう、だね」

 言葉の意味が伝わる必要はない。

 僕の決意表明だ。

 最後まで僕を見捨てなかった、唯一無二の存在。

 君のためなら、何でもしよう。

 さしあたり、まずは受験勉強だ。

 楽しみにしてる高校入学式を迎えさせてあげなければいけない――。