誰もが『怪談』や『奇跡』と噂するような出来事から数日後。

 「結姫、退院おめでとう」

 「惺くん、迎えに来てくれたんだね!」

 病院の前で待っていた僕の元へ、結姫が小走りで駆け寄ってくる。

 小さい身体を目一杯に使って、喜びを全身で爆発させたように。

 走っちゃダメだろうと駆け寄りたくなる。

 だけど結姫の両親は、涙ぐみながらその様子を見守ってた。

 「惺くん、私は自由だよ!」

 「えっと……。走って大丈夫、なの?」

 「うん! 検査したんだけどね、今までの異常が全部消えてるの! まさに奇跡で、説明がつかないってさ! お医者さんが難しそう~な顔をしてたよ!」

 「それは……。うん、良かったね」

 お医者さんには申し訳がない。

 きっと、どれだけ説明をしても理解はされない。僕が病気を疑われるだろうね。

 「優惺くん。これから時間はあるかな?」

 「おじさん。はい、ありますが……」

 「良かったわ~。これからね、家で結姫の退院祝いをするのよ。優惺くんも遠慮しなで食べていって。これから入間 のアウトレットで大量に買い込むからね」

 「楽しそう~! 惺くんは何が食べたい? 私はフルーツたっぷりのホールケーキ!」

 「大きいホールのまま食べる気なの?」

 「入院してた間、甘い物ほとんど食べられなかったんだよ? 甘い味が恋しいの!」

 結姫のお(なか)が心配だ。

 満面の笑みで跳ね回る結姫を見てると、本当に寿命が渡せて良かったと思う。

 僕にとって、結姫の笑顔は――全てだ。生きる意味であり、理由だ。

 それにだ。

 結姫の笑顔の輝きこそ、カササギが持ってた瓶に詰められた輝きに違いない。

 おじさんが運転する車に乗り、僕は結姫の隣へ座ることになった。

 「結姫。何をしたら笑えるかな? これから何をやりたい?」

 「急にどうしたの、惺くん。気が早いよ」

 「結姫に笑ってほしくて……。いや、笑ってもらわなきゃ困るんだ」

 自由奔(ほん)(ぽう)に動き回る結姫を見て、半ば確信した。

 カササギの求める対価とは、結姫の眩しい笑顔だろう。

 あの瓶に詰まってた星々に負けないぐらい、結姫の笑顔は美しいんだから。

 「困る? ん~……。すぐには思いつかないなぁ」

 「そっか。何か僕にできることがあったら、すぐに言って。何でもするから」

 「……惺くん? 何をそんなに急いで、私を楽しませようとしてくれてるの?」

 「……秘密」

 首を(かし)げる結姫に、言葉を(にご)すしかない。

 まさか、結姫にカササギの話をするわけにはいかないだろう。

 多分、信じてもらえないはずだ。それぐらい、おかしなオカルト話だから――。