「あっと、そろそろ帰るよ」
「え、帰るって……」
「家の方だよ、すぐそこの。茄子で家に着いたけど、誰もいなくてさ。もう家族帰ってるだろ」
「そりゃ帰らなきゃ」
「達樹、じゃあな」

「光毅……じゃあ、また明日」

 窓から去っていく前に、頭を撫でてくれた気がした。手の感触はないけど、ふぅと暖かい風に髪を遊ばれたから。僕の髪を弄ぶ光毅の癖に感覚が似ていた。心地よさが懐かしい。
 
 僕の最後の挨拶に光毅は言葉を返してはくれなかった。
 光毅は一瞬少し困った顔をしたけれど、すぐ笑顔になって、黙って大きくうなずいていた。