カツカツカツ、と舞の厚底靴の音が遠のいていく。涙はその音が聞こえなくなるまで手を振った。
「眩夢の妹だけあって、いい子だったね、優しくて。」
「お前が女の子からキャーキャー言われるの苦手なの知ってるから、ちょっと意外だった。舞を受け入れてくれてありがとう。」
「うん。でもね、僕は舞ちゃんとは付き合えない。」
そこで一呼吸置いて、深呼吸する。
そして、眩夢をみつめながら、頬を染めて大声で、
「他に好きな人がいるから。」
と宣言した。心臓が波打つ。
「ほぅ。ふぅん、そーなんだ。」
そっけないいつも通りの眩夢の反応に、肩透かし。
ぬるま湯になったスポーツドリンクを一気に飲みほす涙を、眩夢が誘う。
なんと、眩夢は涙の右手を、左手で握った。
「行くんだろ、観覧車。」
「う、うん。」これは眩夢のことばかり考えている脳が見せる幻影なのか、、、と涙は戸惑う。
「お前は俺について来い。」
「…はい。」今この瞬間、幸せの絶頂で。
「観覧車乗る前に、死んじゃいそう。」
「俺より早く死ぬの、許さないから。」
観覧車に並んでる間も、眩夢は握った手を離さなかった。
ゴンドラに乗る時も、眩夢が転ばないように手を取ってくれて、係のお姉さんもにこにこするほどの仲睦まじさだった。
夕日が入ってくるゴンドラはオレンジに染まり、なかなかエモーショナルな空間だった。
そのムードに浸って二人とも無言で、頂上付近になって初めて涙の口から言葉が溢れた。
「眩夢、綺麗だね。」涙が窓に貼り付いていると、
「お前がな。」と眩夢に言われてひっくり返りそうになった。
「はい?僕が言ったのは景色のことで、、、」
「俺にも、好きな人がいる。どんなに世界が美しかろうが俺一人じゃ意味ないからさ。」
「それって、、、」
「お疲れ様でしたー!お気をつけてお帰りください。」
絶頂の美しさだった夕日は、薄暗い夜を纏い、涙は眩夢の耳を赤らめた後ろを追いかけながら、電車に乗った。
別れ際、二人共なんだかどうにかギクシャクしてしまい、バイバイと小さく手を振って別れた。
帰り道、今日の眩夢のかっこいいシーンの数々が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
「かっこよすぎて、、、」
お互いにお互いの気持ちはわかってる。
「ますます好きになっちゃったよ、もぅ。」
きっと、二人とも、好きの先に行くのが、怖い。
僕は超恋愛初心者で、眩夢以外に好きな人いたことない。100%眩夢にそれも知られている。
眩夢の所有物になりたい、支配されたい、そして、
僕以外の人に、あの照れた笑顔を見せないで。