「涙、遊園地行かね?」
いつも大人びたように振る舞う眩夢に不釣り合いな提案に、涙が戸惑っていると、
「デートだから。じゃあ土曜に、遊園地前で待ち合わせな。」
そう言って眩夢は涙の頭をくしゃくしゃっと撫でて、じゃっ、と立ち去る。
涙はポカンとしたままぽつんと残された。
(デート。デ、ート?デーーーート!!!!)

嬉しい反面、軽々しく好きだのデートだの言って、すぐけろっとしている。いかに涙だけが眩夢を好きか。向こうがライクでこっちがラブで。涙はうるうるなる目を両手で拭う。 
 この前だって、思わせぶりに抱きしめられて、教室の鍵を中からかけられて、すっごくドキドキしたのに。
「俺にイケナイこと、教えて。」
「え、、、」
「数学。このままだと、大学イケナイから。」
涙がずっこけたのを見て眩夢はドヤ顔で満足そう。
(そっから数学みっちり二時間。成績上がったのは良かったけどさぁ)
そんなことをベッドに横たわりごろごろしながら反芻する深夜2時、日付変わって今日が土曜日、遊園地。こっそり隠し撮りしている眩夢の笑顔の写真をみていたら、ああやっぱりときめく。
一目見てかっこいいと思ってた眩夢に、話しかけた5才の自分を、脳内で定期的に褒めるのだ。

朝5時にアラームが鳴る。両親が海外赴任していて、一人暮らしなので、朝早く起きても誰かの睡眠を妨害することはない。
おにぎり、卵焼き、ウインナー、ブロッコリー。学校では毎日眩夢と購買でパンを買っているので、自分でお弁当を作るのは滅多にないし、ましてや眩夢、誰かに、しかも特別な人に作るなんて、自分の思いつきの女子力に引いた、男子だから。

弁当もチケットも忘れず、10分前に約束の場所に着いた。秋の風が涼しい、で、デート日和。そわそわしながら待っていた。肩に手を置かれ、眩、、夢?にしては華奢な手なような、、。
「涙様♡お久しぶりです!私のこと覚えてますか?」
「る、涙様?えっと、君は確か眩夢の、、、」
「はい、妹の舞です。愚兄がいつもお世話になっております。この前の体育祭でちらりとご挨拶させていただきました。」
黒と白のワンピースに日傘、涙袋ぷっくりなバッチリメイクの舞ちゃんをみながら、こういうファッションなんていうんだっけ、テレビで特集されてて、ああそうだ。
ー地雷系だ。
「えっと眩夢はどこ?」 
「あっちです。」レースの白手袋が指す方を見ると、眩夢が自販機と睨めっこしていた。
「待たせたな、すまんすまん。スポドリでいいな。」
涙はドリンクを受け取りながら、眩夢を小声で問いただす。
「眩夢、妹さんも来るなんて、きいてないよ」
「すまんな。体育祭でお前に一目惚れした、また合わせろって舞がうるさくて。兄妹だから感性似てるのかもな。」
ーえ、これって、好きな人から別の人紹介されてる?
「…じゃあ眩夢は、僕に舞さんと付き合ってほしいの?」
「うん。今日だけ、、って涙?」
また目が涙でいっぱいになったから、眩夢を避ける。
お弁当なんか浮かれて作っちゃって、馬鹿みたいだ。
「さっそく行きましょう、涙様!あれ、お身体優れませんか?」
「大丈夫。行こ。」
ゴクリと飲んだスポーツドリンクは、甘ったるくて溺れそうになった。