出会った時から、涙は優しすぎる。
優しすぎるから、学校とかいう俺たちの入れられる箱の中じゃ呼吸が出来なくなる。
眩夢と涙が出会ったのは、保育園の年中の時。
今となっては恥ずかしいが、当時の眩夢は所謂ガキ大将で思い通りにならないとすぐ怒った。眩夢がかんしゃくを起こし、コップを床に叩き投げた。プラスチック製だったのが幸い。
しかし、周りの園児たちも、優しいはずの先生も、眩夢にかつてない冷たい視線を向けた。
あ、これ人生終わった?眩夢がうずくまって泣きそうになるのを耐えてると、

「眩夢くん、大丈夫?」
栗色の瞳が心配そうに眩夢を見ながら、タオルで体に飛んだ液体を拭ってくれた。
中性的なボブヘアー、今まで存在を認識してなかった、だからこそだろうか、その栗色の瞳を見てると、心臓がバクバクする。
「お前、名前は?」
「るい。涙って書いて、涙。」
ふと、涙の名札が女子の色じゃないことに気がついた。
「男なんだ、にしては可愛い顔だな」
そう言って目を合わせると、湯沸かし器の勢いで涙の顔が赤くなった。
コップを戻しに、二人で台所までいき、まだ恥ずかしそうにもじもじしてる涙だったが、意を決したように眩夢に話しかけた。
「僕が男か女かなんて、眩夢くんの好きな方選んでいいよ。眩夢くんのこと、その、ずっと見てて、かっこいいなって、思っていて、えっと。」

当時5才。女子から告白されたこともあったけど、好きになることはなかった。
だから、こんなに体が熱を帯びた自分に驚き、困惑した。

「お前は男。女は面倒くさい。」
「ありがとう、眩夢くん。僕はあなたの、と、友達になりたい。」
そっから10年、ガキ大将を辞めて涙の親友兼ボディーガードをやってる。
涙と居れば居るほど、ズキズキ高まっていく鼓動が、恋心だと、高校一年生にもなればさすがに気づく。
「好きだよ、涙。」
桜並木のひらひら花びらが舞う通学路、涙はさらさらした髪を靡かせながら、照れ臭そうに笑う。
「ありがとう。」
高校卒業までに、こいつと両思いになる。
それが今の夢。