『シリウスって、さっき出てた星の?』
『うん。普段の深山くんは太陽みたいな人だけど、ふとした時に星のような人にも思える』
明るいね、と自分のことを太陽のように例えられたことはあった。
その表現はなんとなくしっくりこなかったけれど、ひなの言葉は胸にストンと落ちてきた。
本当の俺は、太陽みたいな人なんかじゃない。
明るくあろうとしてるだけの、ハリボテだ。
実際は、真っ暗な闇の中でなんとか必死に光ろうとしている。誰かの頭上を小さな光で照らしたいと願っているだけの、ちっぽけな存在。
彼女はきっとそんな意味で言ったのではないだろう。だけど、その感じ取り方や言葉の選び方はしっくりときて、本能的に『好きだ』と改めて実感した。
『……好きだ』
衝動的に口にしたその三文字に、まさかひなが頷いてくれるとは思わなかったけれど。
その日をきっかけにひなと付き合うようになった。
ずっと恋愛相談をしてきた千代さんは、ご近所さんを招いて盛大にお祝いパーティーまで開いてくれた。
けれどひなは『付き合ってることを周囲に知られたくない』と言う。
以前の女子たちの言葉もあるし、いろいろ言われてしまうことを気にしているのだろう。
その気持ちを尊重して、俺たちは付き合っていることは内緒にすることにした。
それでも普段、放課後や休日はお互いにバイトや塾がありなかなか一緒に過ごすことはできなかった。
夏休み中も、俺は補習かバイトでほとんどが潰れた。ひなも夏期講習があるとのことで、勉強詰めだったらしい。
本当は、もっと連絡したり遊んだりしたかった。
けれど聞けばひなの家は父親が教育熱心らしく、だいぶ厳しく勉強を強いられている様子だった。
俺と付き合うことで成績に支障が出ても大変だし、となるべくひなのペースを乱さないように我慢した。
そんな中で一度だけ、お互いオフの日に会って一日デートをした。
都内の水族館に行って、手を繋いで歩いて、夕方には解散する。なんとも健全なデートだった。
私服姿のひなはかわいくて、一緒に出かけられることにも浮かれた。けれど当日、俺はその手をつなぐくらいしかできなかった。