同じクラスの、永井ひなの、という彼女。

その年の入試最高得点の生徒が選ばれるという入学式の新入生代表挨拶をした彼女は、テストでは毎回上位、授業中も当てられる度に完璧な受け答えをする言わば秀才だ。

制服を着崩す女子もいる中で、いつもブラウスのボタンを一番上までとめて、ブレザーのジャケットをきちんと着ている。
シワや毛羽のついていない制服に、汚れのない上履き、きれいに畳まれたジャージ。そんなみなりのひとつひとつから、几帳面か相当育ちがいいかといった印象を受けた。

けれどそのとっつきづらさのせいか友達はいないようで、いつもひとり無言で読書か勉強をしている。



暗い、というよりかは大人しい。
けどよく見れば、色白な肌にまつ毛の長い大きな目、つやのある黒い髪とまるで人形のような外見だ。

あんなにかわいいのに愛想がないから周りに一線を引かれているなんて損してるな、と思う反面いつも凛としているその存在につい目を向けることが増えた。

どんな声で笑うんだろう。どんな顔で怒るんだろう。
彼女を知りたい気持ちは日に日に増していく。



『それは恋ねぇ』



その頃出会った千代さんは、俺の話を聞いてそう笑った。



『……いや、恋とかそういうのじゃないと思うけど』

『えぇ?その子が気になって、知りたくてなんてどう見ても恋じゃない。運命的なものをビビッと感じちゃったのねぇ』



運命的って……。
なんともロマンチックな言葉を使う千代さんに、呆れてしまいながらも少し納得できてしまう自分がいた。

たしかに、そうなのかもしれない。
まともに話したこともない、接点もない彼女がこんなにも気になるなんて。
運命的ななにかを感じてる、という言い方が自分のなかでもわかりやすい。



『勇気を出して話しかけてみたら?意外と話してみたら友好的かもしれないわ』

『そうかなぁ』

『やってみなきゃわからないでしょ。男は度胸!』



千代さんに背中を押される形で、数日後に勇気を出してひなへ声をかけた。