一気に冷静になった俺はいろいろと考え、高校受験前に、母親に地元を離れることを伝えた。



『俺、高校生になったら家出て行くよ。都内のじいちゃんの家に住ませてもらって、そこから学校通おうかなって思ってる』

『え……?どうして、いきなりそんなこと』

『ちょっと前から考えてた。じいちゃんにも、もう許可もらってある』



母親と柚花と、距離をとる。
そばにいて傷つけるくらいなら、離れたところから見守ろう。

そんな俺の決心は言葉にしなくても伝わったようで、母親は俺のことを抱きしめながら泣いた。



『ごめんね、彗……お母さんが弱いから、ごめんね……』



その言葉と強い腕から、母親も必死にトラウマと化してしまった過去と戦っているのだと思った。
寂しさも悲しさも飲み込んで、ただ、『いいんだよ』とその肩を抱きしめるしかできなかった。



そんな中学時代を経て、俺は都内の高校に無事合格。
母方の祖父の家に世話になりながら高校生活をスタートした。

年金で慎ましく暮らす祖父の負担になりたくなくて、自分にかかるお金はなるべく自分でまかなおうとアルバイトを始めた。

高校でもバスケを続けたかった、という気持ちもあるけれど、バイトはバイトでいろいろな人との出会いがあって楽しかった。

学校でも男女問わずいろんな人と接して友達も増えた。
けれど家庭のことを打ち明けられるほどの友達はおろか、表面上笑顔でつながるだけの関係がほとんどだった。

そんな中で、いつもふと視線を奪われる存在があった。