「大丈夫ですか!?」
突然頭に入り込む大きな声に、そっと目を開いた。
肩や腕、足など全身がじんじんと痛み、ぼんやりとする意識の中で目だけを動かすと、地面に倒れ込む私を沢山の人が囲むように立っていた。
「ここ、は……」
掠れた声を絞り出すと、周囲の人々は一斉にわっと声を上げる。
「あっ、目ぇ覚ました!」
「大丈夫!?さっき救急車呼んだから、もう来るからね!」
ここ、どこ……。
地面の感触と辺りの景色から、ここが歩道橋の下であり、私がそこから落ちたのだと察した。
私、海辺にいたはずじゃ……?
それにどうして制服で、階段から落ちたなんて……。
そこまで考えてから、自分がタイムスリップから戻ってきたのだと気づいた。
タイムスリップ……いや、夢?
なにが現実でなにが夢かがわからず、困惑しながらゆっくりと体を起こす。すると若い女性が慌てて肩を抱いて体を支えてくれた。
「ちょっと、突然起きて大丈夫なの!?」
「はい、たぶん……」
全身は痛いけれど、どこも出血もしていないしふらつきもない。
恐らく大丈夫なのだろうけど、心配してくれている人たちの厚意に甘え私は大人しく救急車を待った。
ふと、自分の手の中に紙が一枚握られていることに気づく。
無意識に握ったままでいたらしい、くしゃくしゃになった紙を広げて見ると、それは彗からの手紙だ。
私の記憶の中の手紙は、喧嘩したことを謝るような内容だったはず。
だけど、今私の手に握られていた手紙はーー
『ひなへ
楽しい時間をありがとう。いつでも空から見守ってるよ』
丁寧な字で書かれたそれは、間違いなく二度目の日々をともに過ごした彗からの手紙だった。
そのたった一枚が、あの日々が夢じゃないと教えてくれる。
空を見上げると、日の落ちた空を東京のあかりが照らしている。
海辺と比べると明るい空に星は見えづらい。だけどそこにちゃんとある。
頭上で確かに、輝いている。
「……彗の願い、叶えるよ」