「ひなのおかげで、全部できた。心残りなくいけるよ」



違う。そんなの、いやだ。
私は彗の心残りを叶えるためにここにきたんじゃない。

彗といる未来を掴むために、ここに来たんだと思っていたのに。



「そんなこと言わないで!!」



叫ぶように言うと、私はしがみつくように彗の右手を両手で掴んだ。



「大丈夫、彗のことは死なせない!私が彗を守る、私が、彗の運命を変えるからっ……!」



どうしていいかなんてわからない。
だけど、私が彗を守るから。この手を絶対に離さないから。

だからっ……!

気持ちが昂り、手が震えるほど必死に伝えようとする私に、彗は空いていた左手で私の手を優しく包んだ。
そして穏やかに目を細めて、首を横に振った。



「俺気づいたんだ。きっとこの二度目の日々は、死にゆく俺の運命を変えるためのものじゃないって」

「え……?じゃあ、なんのために」

「俺の、最期の願いを叶えるため」



その言葉に、恐る恐る問いかける。



「彗の最期の願いって……?」



お願い、『どんなことよりも生きたい』って言って。
そして願いを叶えてくれる神様がいるのなら、どんな運命も捻じ曲げて、彗の願いを叶えてよ。

そう心の中で願う、けれど。



「ひなに、前を向いて生きてほしい」



その願いは、私のためのものだった。

終始穏やかな彗の表情から、自分のための願いではないのだろうと予感していた。
けど、なんで、私のための願いなんて……。



「ひなは、この数日で変わったよ。
強くなった、未来を見られるようになった、気持ちを声に出せるようになった。それだけで、俺がここにいた意味があった」



その通りだ。このほんの数日で、私は変わった。

まず、変わりたいと思った。
岡澤さんに話を聞いてほしいと気持ちをぶつけた。千代さんと未来の約束をした。お父さんに初めて反抗して、本心を打ち明けた。

いつも明るい彗に知らない一面があったと知った。
ほんの少しの勇気で変わることがあること。どんな人にも弱さがあること。いろんなことを知った。

それはきっと、この先の自分の人生になにかを与えてくれるであろう変化だ。



「俺がいなくなった未来でも、前を向いて生きてほしい。
夢を追いかけて、誰かに頼ったり甘えたりしながら、過去を悔やまず生きてほしいんだ」



そしてこの日々は、この先の自分の人生の糧になるのだろう。

だけど違う。
その日々の中に彗がいないと、なんの意味もないんだよ。