「俺と出会ってくれてありがとう。そばにいてくれて、ありがとう」
ありがとうは、私のセリフだよ。
彗と出会えて一緒にいて、たくさんの言葉や気持ちをもらったから私の人生は変わったんだよ。
だからこれからも、そばにいてほしい。
そう、伝えようと口を開いた瞬間。
「でもきっと、もう終わりなんだよね」
彗の穏やかな声が、星空の下に響いた。
繰り返しているはずの波音すら聞こえなくなるほど、そのひと言で頭が真っ白になる。
もう、終わり……?
「え……?」
予想だにしなかった彗の言葉に驚き、たったひと声だけが口から漏れた。
すると体を起こした彗は、悲しそうに笑顔を見せる。
「俺さ、この世界で生きる前に違う世界で生きてたんだ。こことよく似た、ほとんど同じ世界。
……違うのは、今日のこの時間には俺は死んでたことくらい」
……なにを、言ってるの。
彗の言葉がなにひとつ理解できない。
混乱しながら私も体を起こすと、彗は言葉を続ける。
「日曜の夜、バイトの帰りに自転車に乗って信号待ちしてたところに車が突っ込んできて……意識が飛んで、目が覚めたら12月3日に戻ってきてたんだ」
12月、3日。
それは私と彗が喧嘩をした次の日……そして、私がタイムスリップしてきた日と、同じ日。
「夢なのかもしれないって思ってたけど、ひなの言動から、俺が死んだことが現実でここはタイムスリップしてきた世界なんだって気づいた。
……ひなも、そうだったんでしょ?」
そこまで言われてようやく頭の中が整理ついた。
彗も、私と同じだった。
現実世界からこの世界へやってきて、二度目の日々を過ごしていたんだ。
「事故にあって意識が遠ざかる中、自分が死ぬって気づいた。そのときにたくさん後悔したんだ。
岡澤と仲直りしたかったとか、千代さんを残していくのが心配だとか……ひなと、もっと一緒にいたかったとか」
思い出を語るように、彗は遠い目をして真っ暗な海を見つめる。
「なんでタイムスリップしたかなんてわからない。けど、せっかく与えられた死ぬまでの時間を俺なりに後悔しないように過ごしたいと思ったんだ」
岡澤さんの元へ行ったのも、千代さんのところで畑を耕したのも、私の背中を押してくれたのも……。
すべて、自分が死んでしまうとわかっていたからこそ彗がやってきたことだったんだと知った。