漁港から離れると、再び辺りは暗くなっていく。
地図アプリの案内に従いながら進む中、私たちはいろんなことを話した。
子供の頃はどんな子だったか。中学生の頃は何部に所属していたか。
彗のバイト先の先輩の話や、私の家の美智子さんの話など。今までしたことがないような話をいくつもした。
そんな風に過ごすうちに、あっという間に1時間半が経ち私たちは目当ての海岸へとやってきた。
「ついた……」
気づけば時刻は深夜2時半になろうとしている。
夜の海岸は真っ暗で、当然誰かがいる気配もない。
ザザ……と波音が絶えず響く中、海岸の先には灯台があり、ライトがチカチカと回っているのが見えた。
「はー、結構歩いたね。ひな、お疲れさま」
「ここまで歩いたことより、喋りすぎて疲れたかも」
「途中笑いっぱなしだったもんね」
話しながら、私たちは砂浜へとおりる。
手をつなぎながら歩いた砂浜は砂がサラサラとしており、歩くたびに足がとられた。
「この辺りでいいかな」
彗は波打ち際から少し距離を取った位置で足を止めると、身につけていたボディバッグからレジャーシートを一枚取り出した。
彗の身長がギリギリおさまるくらいの、思ったよりも大きめなそのレジャーシートを広げると砂浜の上に敷く。
「準備いいね」
「でしょ?せっかくだし、星空鑑賞もしたいなって思って」
彗はそういうとレジャーシートの上に座り、ごろんと仰向けに寝転がった。
私も続いて腰を下ろし、彗星のとなりに寝転がる。
シートの下の砂の柔らかさに包まれて、全身からどっと力が抜けた。
ここまで歩いてきたおかげで体はすっかり暖まり、夜の海辺にいても寒さはそこまで感じられない。
むしろ時折吹く風がどこか心地よく、一瞬目をつむってからゆっくり開けた。
すると目の前には、いくつもの星々が無数に広がる空があった。
「わ……きれい」
「うん。この辺りは田舎で明かりも少ないから、星の輝きがよく見える」
深い黒色の空に、冬の澄んだ空気も相まって星がひとつひとつはっきりと輝いている。
それは灯りの多い東京の街からはあまり見えない景色だ。
……校外学習のときの、プラネタリウムを思い出すなぁ。
本物の星は、プラネタリウムで見るより小さく、けれど透き通ったあかりで輝いている。