東京を出て2時間ほどが経った頃。バスは終点、千葉県の最東端の駅に停まった。
そこで降りると、辺りは街灯がぽつりぽつりと灯るだけの寂しい田舎駅だった。

海があるから温暖な気候なのか、東京より少し気温があたたかい気がする。

それにしても、この時間ということもあってか、辺りには誰ひとりとして歩いていない。
ここまでくる間もほとんど畑か田んぼしかなかった。

東京の明るさに慣れていると、この暗さもひと気のなさも寂しいというかもはや不気味だ。



「さて、じゃあここから海は……あれ!?」



スマートフォンの地図アプリで見て、彗はなにやら驚きの声をあげる。
何事かと画面を覗き込むと、彗が目的地とする海岸まではこの駅から徒歩1時間かかると表示されていた。



「えっ、海岸ってこの近くなんじゃないの?」

「ね。俺もそこまで調べてなかった」



ここに来るまでの道のりしか確認していなかったのだろう。まさか、といった様子でしゅんとする彗に、私はつい呆れて笑うと手を差し出した。



「もう……ここにいても仕方ないし、行こ」

「えっ、1時間も歩くけど大丈夫?」

「散歩みたいなものでしょ。それに、彗となら1時間もすぐだよ」



いつもは彗が手を差し伸べてくれることばかり。だけど今、自ら手を差し出せたことに自分のなかの変化を感じた。



「……そうだね」



彗もそれを感じているかのように、笑って私の手をとった。

潮の香りがただよう中、駅からまっすぐ歩き利根川沿いの道を進む。

しばらく行くと見えてきた漁港には大きな漁船がいくつも並んでおり、船の大きな明かりが一体を照らしている。
初めて目にする景色に、私も彗も視線を奪われながら歩き続けた。