「……どう、だった?」



バスの中、小声でたずねた私にそれまで真剣な顔をしていた彗はふっと笑みをこぼした。



「面白かった。すごい、最後まで夢中になって読んじゃった」



それまでずっと集中していたのだろう。少し乾いた声で、彗は言う。



「本当?」

「本当。俺がここまで無言で読書してるの、見たことある?」

「ない……」

「でしょ?」



確かに。教科書も図書館の本も、すぐに飽きるか眠くなる彗がここまでずっと読み続けてくれていた。
それが彼が物語を楽しんでくれたなによりの証拠なのかもしれない。



「この短期間で頑張って書き上げてくれたんだね。所々荒削りだけど、ひなの伝えたいことがたくさん詰まってて、普段言葉にしないひなの優しさに触れた気がした」



彗はノートを大事そうに両手で持って、私にそっと手渡す。



「この話と出会わせてくれて、ありがとう」



……ううん、違う。

この話が最後までたどりつけたのは、彗のおかげなんだよ。
彗の言葉や支えがあったから、ひとつの作品として完成したんだよ。

だから、私からすれば。
『この話と出会ってくれて、ありがとう』、なんだよ。

言葉にしたいのに、胸がつまって声にならない。
だけどその気持ちを抑えきれず、私はノートを受け取るとそれをぎゅっと抱きしめた。