「なんかね、日本で一番早く日の出を迎えるところがあるんだって。そこでひなと朝日をみたいなって思って」
朝日を見るためだけに、こんな時間からそんな遠くまで?
余計に意味がわからない……。
すんなり理解はできず困惑してしまう。
けれど彗が『行こう』というように優しく手を差し伸べてくれるから、私は深く考えることをやめて、その手をとって一緒に歩き始めた。
新宿から、電車で十数分で東京駅へやって来た。
普段あまり来ることのない東京駅で、少し迷いながらもバスターミナルへ向かい、そこから高速バスに乗る。
目的地である終着地点までは2時間かかるらしい。
暖房がきいたバスの中、一番奥の窓際の席に腰をおろし、あとは眠るだけだとひと息ついた。
「……そうだ、彗。これ」
「ん?」
思い出したように手渡したのは、先ほど書き終わったばかりの小説だ。
「えっ……もしかして書き終わったの?」
「うん、さっき。……それで、彗に読んでもらいたくて持ってきた」
「ありがと。読ませてもらうね」
彗が笑顔でノートを受け取り、一番初めから目を通す。それと同時に、バスは目的地へ向かい走り始めた。
今回書き上げたのは、ずっと書きかけだった物語。
舞台は東京・浅草。カフェを営む義理の父娘が、そこで出会う人々とともに穏やかな時間を過ごす話だ。
ある時は常連客であるOLの恋を応援する存在になる。
ある時は記憶をなくしたおばあさんと、思い出を取り戻す旅に出る。
ある時は、娘の本当の父親を名乗る男がやってきて……。
そんな日々を過ごす中で、父娘はまるで本当の親子のような絆を紡いでいく、という話だった。
彗がノートを読む間の時間は、すごく長く感じた。
不安と期待が入り混じる、緊張感のただよう時間。私はただ無言で窓の外を見つめた。
そしてバスが高速道路をおり、先ほどまでビル灯りに囲まれていた景色が一気に真っ暗になった頃。彗はパタンとノートを閉じた。
その仕草を合図に、私は恐る恐る彗のほうを向いた。