今日の待ち合わせは、夜9時。

幸いにも父は明後日まで出張中だ。
念のため美智子さんには夜に出かけることを伝えたところ、『深くは聞きませんが……楽しんで!』と頬を染め親指を立てていた。絶対なにか誤解してる。

だけどそんな遅い時間に行きたいところって……どこだろう。検討がつかないや。



どこにいくかもわからないなりにいろいろと考えて、昨日のようなデート服というよりは暖かさ重視で、セーターにパンツ、ボアコートという格好にした。

出かけに、制服のポケットから手のひらほどの巾着袋を取り出す。そして彗のかけらをぎゅっと握ると、コートのポケットに忍ばせた。



最後の日だという緊張感を胸に家を出て、電車に乗って新宿駅へと向かう。

待ち合わせ場所は、新宿駅の東口。
どこに行くにもアクセスがよく動きやすい場所だ。

毎日のように通っている新宿駅も、日曜の夜となるといつもと景色を変える。
無数の人々が流れるように通っていき、それに合わせるように自分の歩みも早くなる。

歩いているうちに乱れた前髪を整え、待ち合わせ場所に行くと、改札口手前の柱に寄りかかるように立っている姿が見えた。

……いた。



「彗」



名前を呼ぶと彗は顔を上げ、私に気づいて手を振った。
昨日と同じ黒いブルゾンにグレーのパーカー、胸の前にはボディバッグを提げている。



「ひな」



いつもよりどこか穏やかな笑顔で出迎えた彗に、私は小走りで駆け寄った。



「お待たせ」

「じゃあさっそく行こうか」



彗はそう言って、駅構内の中央線乗り場を指差した。



「ねぇ、どこ行くの?」

「どこって、海だけど?」



海って、あの……海?こんな時間に?
なにを言っているのかと呆気にとられる私を見て、彗はおかしそうに笑う。



「こんな時間からだけど、九十九里浜に行きたくてさ」

「九十九里浜って……確か千葉の端っこだよね。結構距離あるんじゃないの?」

「うん。だから今から行かなきゃ間に合わないから」



間に合わないって……そこでなにをするつもりなの?
意味がわからない、と彗を見ると、言葉に出していなくても表情で伝わったのだろう。彗は言葉を続けた。