この世界にタイムスリップしてから、ずっと思っていたことがある。

どうして私は、ここにきたんだろう。
なんのために私がここにきたんだろう。

それは今だにわからない。
だけど、ここにこなければよかったと思ったことは一度もない。

ここにきたから、彗のことを深く知ることができた。
お父さんとも向き合えた、前を向くことができたから。



元の運命通りなら、彗は今夜亡くなってしまう。
今日が、最後の日。
どうなるかなんてわからない、だけど後悔のないようにただひたすらノートに文字をつづった。

そして、長い文章の終わりに『終』と書き終えたのは、12月8日、日曜日の夕方のことだった。



「終わったー……」



ずっとノートに書き続けていた小説を、ようやく書き上げることができた。
達成感のあとの脱力感に襲われて、私は机に伏せた。


手元には、表紙をテープでとめたノート。1ページ目から最後のほうのページまで文字がびっしりと書かれた分厚いノートを見ると、顔がゆるんだ。

ようやく書き終わった。
自分の生み出したキャラクターたちの人生の一部を、ようやく書き切ってあげることができた。
これで彗に読んでもらうことができる。
今日に間に合ってよかった……。

読んだときの彗の表情を想像して、緊張とともにワクワクした。
しばらくそのまま伏せた状態でいたけれど、しばらくして待ち合わせの時間を思い出し慌てて身支度を始めた。