「おかえり。母さんになに買ったの?」
優しい笑みで聞いた彗に、柚花ちゃんは正面に立ち向かい合うと、彗の顔の前に袋を突き出した。
「ん?なにこれ?」
「あげる」
ピンクのチェック柄の紙袋を手に取り開けると、先ほど買ったパンダのマスコットが出てくる。
パンダにつけられた『S』のアルファベットに、自分へのものだと気づいたようで彗は目を丸くして驚いた。
「これ……」
「……お兄ちゃんなんて、嫌いだよ」
「え!?」
って、今それ言う!?
言われた本人の彗同様、私も驚き柚花ちゃんを見ると、柚花ちゃんは俯きぎゅっと拳を握る。
「パパとママが離婚したの、パパが悪いことしたからってわかってる。
お兄ちゃんのせいで離婚したって思ってるかもしれないけど……お兄ちゃんのおかげで、ママはすごく元気になった」
お父さんの暴力を知っていたのか、お母さんからなにか聞いたのか。柚花ちゃんは、離婚の理由を知っていたんだ。
「ママのことも私のことも大切にしてくれるのに、なんでお兄ちゃんだけ離れて暮らさなきゃいけないの。なにも悪いことしてないのに……全部ひとりで片付けようとする、お兄ちゃんのそういうところが嫌い」
「柚花……」
「家族なんだから、私にも甘えてよ。パパとママが離婚したって、私はお兄ちゃんの妹なんだよ」
言葉とともに上げられた顔は少し拗ねたような、照れたような、怒ったような表情。けれど耳まで赤く染まり、その『嫌い』に愛情が込められているのが感じ取れた。
柚花ちゃんも、きっと悔しかったのかもしれない。
大好きな人が寂しい思いをしていると知りながら、なにもできなかったこと。
だけどきっと今この瞬間伝えた言葉が、彼の心を救うはず。
すると彗はマスコットを右手に握ると立ち上がり、柚花ちゃんを抱きしめた。
「ちょっと、恥ずかしい!やめてよシスコン!」
「シスコンでいいよ。柚花、ありがとう。だいすきだよ」
恥ずかしがって怒る柚花ちゃんに、構わず抱きしめ頬擦りまで始める彗。
そんなふたりを見て、思わず私は笑ってしまった。
そうだよ、彗。
彗だって甘えていいし頼っていい。いつだって強くなくていい。
弱いところもちゃんと見せてほしい。
……私も、弱さを打ち明けられるような存在になりたい。
支えられるばかりじゃなく、彗を支える人間になりたい。
そう、強く思った。