「それ、お兄ちゃんに?」
「なっ……!?別に、そんなんじゃないし!」
突然私に話しかけられ、柚花ちゃんは照れを隠すようにキーホルダーを売り場に戻す。
「お兄ちゃん、パンダ好きって言ってたもんね。イニシャルもSだし」
「さ、さぁ?そんなこと言ってたっけ。お兄ちゃんの好みとかどうでもいいし」
突き放すような口ぶりをしながらも動揺を隠しきれていない、そんな柚花ちゃんに私は思わず笑ってしまいながら問いかける。
「柚花ちゃん、お兄ちゃんのこと嫌い……じゃないよね」
それは今日会ってからずっとわかっていたこと。
だって私の記憶の中にある葬儀の日に見た幼い女の子は、ずっと泣きながら彗の棺にしがみついていたから。
火葬の直前まで、声を枯らしながら『お兄ちゃん』って泣いていた。
あんな悲痛な姿を見たら、『どうでもいい』なんて言葉が嘘だとすぐわかる。
その証拠に、私の言葉に対しても柚花ちゃんは否定をしない。
「お兄ちゃんのこと嫌いじゃないなら、ちゃんと伝えてあげてほしいな。
いつ言えなくなるかなんてわからないし……言えなくなってから後悔しても、遅いから」
彗が亡くなって、何度悔やんだかわからない。
いなくなってしまうなんて思ってなかった、だから仕方ない。そう思っても自分を納得させることなんてできなかった。
そんな後悔の気持ちを、柚花ちゃんには抱えてほしくないから。
「……ひなのさんは、そういうことがあったの?」
ぽつりとつぶやくようにたずねた柚花ちゃんに、私は小さく頷く。
「あったよ。傷つけるような言葉をぶつけて、八つ当たりして。次会ったら謝ろうって思ってたのに、一生会えなくなっちゃった」
「一生……つまり、死んじゃったってこと?」
「……うん。だから、柚花ちゃんにも同じ後悔をしてほしくないんだ」
私は一度売り場に戻されてしまったパンダのマスコットを手に取り、柚花ちゃんへ差し出す。
柚花ちゃんはそれを見つめると、恐る恐る受け取りレジへと向かっていった。
そして会計を済ませると、彗の待つベンチへふたりで戻った。