「私がいるから。だから、彗もちゃんと頼ってよ」
彗が今まで私にくれた、あたたかさや安心感、未来への希望。それら全てを返すほどのことはできないだろう。
だけど、私ももうなにも知らないままはいやだ。
なにもできないままはいやだ。
「彗が私のことを支えたり励ましてくれるように……私も彗を支えるし励ますから。
全部ちゃんと、受け止めて抱きしめるから」
だから、寂しいときは『寂しい』と言って。
悲しい時は涙を見せて。
真っ直ぐに思いを伝えた私に、彗はほんの少し呆気にとられてから小さく笑う。
「……ありがとう、ひな」
涙で濡れた私の目元を、指先でそっと拭った。その優しい手に、いっそう泣けてしまいそうになる。
「ラブラブとかキモっ」
ところが、不意打ちのその言葉に私と彗はふと我に返る。
ハッとして見ると目の前には、嫌なものを見る目でこちらを見ている柚花ちゃんの姿があった。
「ゆ、柚花ちゃん!あの、これは」
「はぁ、人の目があるところでそういうのやめてよね。お兄ちゃん、ママにお土産買ってくるからお金ちょうだい」
「はいはい」
子供の前でこんな姿を見せるなんて、とあわてて弁解しようとするけれど、柚花ちゃんはスルーして彗へと手を差し出す。
彗から渡された2000円を小さな手で握ると、少し離れた先の売店へと向かって行った。
「彗、私も一緒に見てくるね」
「うん、いってらっしゃい」
売店は見たところだいぶ混んでいるし、女性のみのトイレと違って不特定多数がいる。
さすがにひとりで行かせるのはと思い、私も柚花ちゃんに続いて売店へ向かう。
すると柚花ちゃんは、レジ横のコーナーでパンダのマスコットに『S』のイニシャルがついたキーホルダーを手に取ってじっと見ていた。
その姿から私は、キーホルダーの贈り先を察した。