「俺、親父似なんだよね。年々顔も声もそっくりになってきて……この姿のせいで母親がフラッシュバックを引き起こしちゃうんだ。
だから、別々に暮らすことにした」



彗は、お父さんに似て……。
つまり、自分がいるとお母さんを傷つけてしまうから。だから離れることを選んだんだ。



「まぁおかげで今では母親もずいぶん回復して、たまに会う程度なら大丈夫みたいだからさ。それがなによりだよ」



努めて明るく言うけれど、どこかから元気のように見える。



「その話、柚花ちゃんは……」

「離婚の原因含めて、全部言ってない。親父、柚花のことはかわいがってたし、柚花も親父のこと好きだったから。
わざわざ関係壊すようなこと言わなくてもいいかなって」



……どうして。
彗ひとりが、皆を傷つけまいとつらい思いをしているの。

お母さんを傷つけないために離れて、柚花ちゃんを悲しませないために本当のことは黙って。
ひとりで全部、背負ってる。



『理解のある親に育てられて、好きに生きられる彗にはわからないよ!』



過去に自分が彗にぶつけた言葉をふと思い出し、なにも知らなかったとはいえ一方的な言葉だったと自分が情けなくなる。

それでも彗は私に怒るでもなく、接してくれた。

なにもかも背負おうと、包み込もうとする彗の優しさが痛い。
涙を見せることのない彗の代わりにとでもいうように、私の目から涙がこぼれだした。



「わっ、どうしたのひな。なんで泣くの」

「彗が、泣かないから……」



彗が本音を隠すように、悲しそうに笑うから。知れば知るほど胸が苦しい。
その苦しさに耐えるように、私は彗の上着の袖をぎゅっとにぎる。