「本当にごめんね。せっかくのデートだったのに」

「いいよ。むしろ、珍しくしっかりしてる彗のお兄ちゃん姿が見られてレアな気分」

「俺はいつもしっかりしてるけど!」



口をとがらせて言う彗が少しおかしくて、私は思わずくすくすと笑った。



「でも柚花ちゃん、ずいぶんしっかりしてる子だね」

「元々の性格もあるけど……今は母親が女手ひとつで育ててるから、しっかりしなきゃって気持ちもあるんだろうね」



そっか。うちはお母さんが死別していても、美智子さんがいてくれたから家事も生活も不便なく過ごせていたけど……お母さんひとりではきっと大変だよね。
柚花ちゃんも子供ながらに迷惑や心配をかけないように、と背伸びしてしまうのだろう。

納得していると、不意に彗は視線を前に向ける。
そこには、楽しげに笑い歩くお父さんとお母さん、そして幼い兄妹の4人家族が歩いていた。
きっとそれを数年前の自分たち家族に重ねているのだろう。切ない目が物語っている。



「わかってたけど、俺柚花に嫌われてるんだよね」

「えっ……どうして?」

「……両親を離婚させたの、俺だから」



離婚『させた』?
どういう意味かと彗を見ると、彼は言葉を続けた。



「うち、父親が酒飲むと手がつけられないやつでさ。酔っ払うと暴言、暴力、おまけに仕事もろくに続かないダメ親父で」

「え……」

「常にその被害に遭ってた母親は心身ともに傷ついて、このままじゃ危ないと思って俺が警察を呼んで……その結果両親は離婚することになった」



そう、だったの?
親の暴言、暴力だなんて……そんなこと微塵も知らなかった。

彗のこと、知らないことが多すぎる。
中学時代のことも、家族のことも、彗はいつも『聞かせるようなことじゃない』と黙っているのだろう。

だけどこうして少しずつ話してくれるということは、少しは心を打ち明けてもいいと思ってもらえてるはずだから。



「ご両親が離婚して……どうして彗だけ、別の家に暮らしてるの?」



先ほど飲み込んだ疑問を、私はあえて問いかけた。
すると彗は悲しげに笑って答えてくれる。