「お兄ちゃん、妹のお守り押し付けられたってことちゃんと説明してあげなきゃこの人もわかんないでしょ。
あ、初めまして。妹の深山柚花です」
「あ……初めまして、永井ひなのと申します」
大人顔負けの冷静さで淡々と名乗る女の子ーー柚花ちゃんに、圧倒されながら私も名乗る。
妹がいたなんて、今まで彗からは聞いたことがなかったから知らなかった。
そもそも彗から家族の話ってあんまり聞いたことがなかったかも。
……あ、でもそういえば。彗が亡くなったあと、葬儀のときに女の子がいた記憶がある。
だけど私の記憶の中のその子とはだいぶ印象が違っていたから、すぐに思い出せなかった。
「本当はふたりでデートの予定で考えてたんだけど……母親が急遽仕事になって、預かるように頼まれちゃって」
頭を上げた彗はただただ申し訳なさそうな顔をする。
「別に私ひとりでいられたのに」
「そうはいかないでしょ。特に最近あの辺り変質者も多いって聞くし……まだ小2の柚花ひとりで留守番なんて母さんも気が気じゃないよ」
「ほっといて。もう別の家に住んでるんだし、お兄ちゃんには関係ないでしょ」
ツンとした口ぶりに、これで小学2年生なのかと驚いてしまう。
けど、『別の家』って……?
私の視線からその問いを察したように彗は言う。
「あー……ひなには言ってなかったけど、うち両親が離婚してるんだ」
「じゃあもしかして高校進学で引っ越したのって……」
「うん、離婚が原因。俺は母方の祖父の家に、柚花は母親に引き取られて、俺と柚花は別々に暮らしてるんだ。
それで今朝は柚花を迎えに行っててギリギリになっちゃったってわけ」
そうだったんだ。
でも彗ひとりがおじいさんの家に住んでるって、どうしてだろう。
……まぁ、学校への距離とか金銭的事情とかいろいろあるか。
深く踏み込むのはやめておこう、と私は柚花ちゃんを見る。
「うん、じゃあ今日は3人で遊ぼう。よろしくね」
軽く屈んで言いながら、握手を求めるように手を差し伸べた。ところが彼女はその手を取ることはない。
「早く行こ」
「こら、柚花!」
それどころか無視するようにスタスタと入園ゲートへ向かって行ってしまった。
そんな柚花ちゃんを、彗は叱りながら追いかける。
難しい年頃だ。
年齢的にも反抗期なのかもしれないし、両親の離婚という背景的にもいろいろ複雑な心境なのかもしれない。
深く気にせず、私もふたりのあとに続いた。