図書委員の当番を終えて帰路に着く頃には空はすっかり暗く、街はビルや看板の灯りがともっていた。



「ひな、駅まで送ろうか?」

「いい。彗の家の方向逆でしょ」



自転車を押しながら正門を出る彗の申し出に、私ははっきりと断る。

私含めほとんどの生徒が電車やバスで通学する中、彗は自転車通学だ。
おまけに学校から最寄り駅までは徒歩5分もかからない。わざわざ送ってもらうほどではない。



「そっか、じゃあ気をつけて。また月曜」



私の答えに彗はうなずき、手を振って自転車にまたがるとその場を発つ。
遠くなるその後ろ姿を見届けると、私は昼間とは違うにぎやかさの中を抜けて新宿駅へと向かった。

そっか、今日は金曜日。
土日は彗はバイト、私は塾と各々用事があるから基本的には会うことはない。
付き合ってから、ふたりで出かけたのも数える程度だ。

月曜まで、長いな。
本当はもっと一緒に過ごしたいのに。

会えない二日間がもどかしく、少し寂しい。
こういう気持ちもちゃんと彗に言えたらいいんだろうな。

私は元々人見知りで、人付き合いも苦手だ。
ましてや彗は人生で初めての彼氏。恋人に気持ちをはっきり伝えるなんてできないし、かわいい言葉や仕草のひとつもできない。

そう思うと、彗はどうして私なんかと付き合ってくれているんだろう……。


そんなことを考えながら電車に揺られ、わずかひと駅。
中野駅で降りるとそこから10分ほど歩いた先にあるマンションへと入る。

3階建ての低層マンションは4戸のみのメゾネットタイプ、各部屋3階建てとなっている。

エントランスを抜けた先にある玄関から自宅に入ると、廊下から真っ直ぐ伸びた先にあるリビングのドアのすりガラス越しに明かりが見える。


玄関にある揃えられた革靴から父が帰宅していることを察した。
そのうえで私はそれを横目に、黙ったまますぐ左手にある階段から2階へと上がった。

リビング真上にある自室に入り電気をつけると、そこにはシングルベッドと学習机、壁際に本棚が置かれただけの部屋が広がる。

漫画やゲーム機など娯楽は一切ない。
個性も面白味もない部屋だ。

……そんなものを置いても、『必要ない』と捨てられるだけだから。