デートって……普通なら緊張してしまうような誘いも、自然にできるところがまた彗らしい。

なにを着よう、どこに行くのかな。
そんなことを考えなら家に戻ると、案の定ニヤニヤと笑いを堪えきれない様子の美智子さんがおり、私は見えないふりをしながら自室に向かった。

部屋に入り、パタンとドアを閉めその場にひとりきりになる。
その途端に力が抜けて、私はドアに背中をつけて座り込んでしまった。



……初めてのことばかりの夜だった。

初めてお父さんに反論した。
初めてお父さんの気持ちを知った。
意外にお母さんに弱く、私のことを思ってくれていて、人らしいところもあったのだと知った。

緊張がとけた胸にひとつ込み上げた、小さなあたたかさ。
それを握りしめるように、私は制服の胸元をぎゅっと握った。



思いを、夢を、言葉にするのは怖い。
本音を否定されたくなくて、これ以上傷つきたくなくて、なにも言えなくなる。

だけど、彗がいてくれたから。
その言葉が背中を押してくれたから、言葉にできた。

お父さんとふたりきりの食卓には、まだぎこちなさが残るだろう。
だけどこれも何ヶ月、何年と時間を経て少しずつ解けていったらいいと思えた。


そんな希望を胸に灯して。
私は立ち上がると、ノートを開き物語の続きを綴り始めた。