「お願いします」
その場で頭を深く下げる私に続いて、彗も頭を下げた。
「僕からも、お願いします」
ふたり並んで頭を下げる私たちに対して父は黙ったままだ。
怒っているだろうか、呆れているだろうか。覚悟をしていてもその表情を知るのが怖くて頭を上げられない。
すると、目の前のテーブルに、コン、となにかが置かれる音がした。
なに?と不思議に思い顔を上げると、そこには肉じゃがが盛られた器が置かれている。美智子さんが置いたらしい。
なぜ、このタイミングで肉じゃが……?
意味がわからずに首を傾げていると、その気持ちは彗もお父さんも同じらしく、不思議そうに美智子さんを見た。
私たちから視線を向けられた美智子さんは、丸い顔をにこっとさせ、その場の空気を一気に明るくした。
「旦那さま。これね、昨日ひなちゃんが貰ってきた野菜なんですよ」
肉じゃがの中のじゃがいも、にんじん、玉ねぎ。確かに昨日、私が千代さんたちからもらってきた野菜だ。
それを早速調理してくれたのだろう。美智子さんは笑って言う。
「泥だらけの格好で両手いっぱいに野菜やお菓子持ってきて。今朝聞けば知り合った人の畑仕事を手伝ったら貰っただなんて、あの人見知りのひなちゃんがねぇ」
「え?そうなのか、ひなの」
美智子さんの話に、それがあまりにも意外だったようでお父さんは目を丸くして驚く。
その問いかけに頷いた私に、美智子さんはさらに言葉を続けた。
「ここ最近のひなちゃんはこれまでとは少し違っていて……少し心配でしたけど、こんなふうに旦那さまと真っ向から向き合おうとする姿に安心しました」
「安心って……」
「だってそうでしょう。さっき彼氏さんがおっしゃった通り、反論も意見もひなちゃん自身の意思がある証です」
それは、幼い頃から私を見てくれていた美智子さんだからこそ出てくる言葉なのかもしれない。
美智子さんは、小さな手で私の背中をポンとさすった。