「だけど、親だろうと好きなことを否定する権利はない。『子供のためを思って』という言葉が夢を奪っていい理由にはならない」



その言葉は、私の心をより強く押した。

今この夢を失くしても、誰も悲しまない。
だけど、いつかもしかしたらと夢を見たがっている自分もいる。

彗が言うような人がもしいるのなら、いつか物語越しに出会う誰かのために書いていたいと思うんだ。

ほんの少しでも、誰かの心をあたたかくしたり、背中を押したり、笑顔にできたり。
誰かのなにかの一部になれたらいい。
だから、『そんなこと』なんて否定しないで。

その思いを伝えようと、私も口を開いた。



「私はお父さんを失望させたいわけじゃない。勉強も嫌いじゃないし、将来のためによかれと思って厳しく言ってくれているのもわかってる」



幼い頃から、『勉強』『将来』とその言葉を繰り返されてきた。
これまでそれに疑問を持ったり反発したりしなかったのは、お父さんからの圧だけが理由じゃない。

お父さんが、私の将来のために言ってくれていることはわかっていたから。

私が安定した道に進めるように、という父なりの愛情なのだと、感じられるときもあったからだ。



「だけど、私にとって小説は夢のかたまりみたいなもので……物語を書いている時だけは、私は私を好きでいられる。
どんなに勉強ができて周囲に評価されても埋まらなかった心が埋まって、私はここにいるんだって感じられるの」



テストでいい点をとれば、周囲は当然『優秀だ』と褒めてくれる。
それはもちろん嬉しいけれど、それでも心は埋まらない。

『頭いいんだね』
『やっぱり秀才は違うよな』
そんな言葉よりも、彗が言ってくれた『面白かった』のひと言が、私を満たしてくれた。



「それをより強く教えてくれたのは彗なんだよ。私は、そんな彗が認めてくれた自分を誇りたい」



今はまだなにも持っていないけど。
いつか、『これが私なんだ』って胸を張れるような、そんな自分になりたいんだ。



「自分のやりたいことをずっと言えなかったことも、塾を勝手に休んだことも反省してる。だけど、夢を追うことだけは奪わないでほしい」



簡単に認めてもらえるなんて思ってない。
否定されることもわかってる。

だけど、奪うことはしないでほしいんだ。
私と彗の心をいっそう近づけてくれたものを。