「……付き合ってるなんて言ったら絶対面倒なことになる」

「最初のうちちょっとひやかされるくらいだって。すぐおさまるよ」


ちょっと、なんて彗は言うけれど『ちょっと』で済むわけがない。
皆からの好奇の目やひやかし、嫉妬、いろいろなものが向けられるであろうことは簡単に想像つく。

……それに。



「それに……つりあわないって言われるだけ」



『どうしてあの人が』、『もっといい人がいる』。
そう言われるのが想像ついてしまうから怖くて言えない。

声に出すとともにシャーペンを握る手にぐっと力が入る。するとその手に、彗の大きな手が重ねられた。
彼の長い指に触れるのは初めてじゃないのに、まだ慣れなくて心臓が跳ねる。

恥ずかしさと戸惑いでどんな顔をしていいかわからずに彗を見ると、その顔は優しい笑みを浮かべている。



「結構お似合いだと思うんだけどな、俺とひな」

「……どこが?」

「なんていうか、雰囲気?静と動というか、昼と夜というか、足りないところを補える感じ?」



またよくわからないことを……。

だけど不安を拭う笑顔で、『つりあわない』と言った私の言葉をはっきりと否定してくれる。それがうれしい。



「なにそれ」



私はかわいげなく言いながら、思わず笑みをこぼしてその指先を握った。



皆の輪の中にいるときの彗は、明るく眩しい人。
だけど私はこうして一緒にいるときの、優しく穏やかで安心感を覚える存在の彗に強く惹かれている。


……好き。

本当はもっと胸を張って言いたいのに。
自信が、ない。