まさか、お父さんが彗を家に招くなんて……どういうこと?
彗のことなんて知らないはずだよね。

戸惑いながら家にあがり、彗を連れてリビングへ入る。



「お邪魔しまーす」



物珍しそうに部屋中をキョロキョロと見回す彗に、小声で『キョロキョロしない』と叱っていると、奥のキッチンからは美智子さんが顔を覗かせた。



「ひなちゃんおかえりなさい……って、あら!どちらさま?」

「どうも、お邪魔してます」



美智子さんは彗を見ると、一瞬驚いてから私たちの関係性を察し口角を上げる。



「まぁまぁ、そういうこと!じゃあお茶とお菓子用意しましょうね!」

「お構いなく〜」



バタバタとキッチンに戻る美智子さんに、いつもの調子で軽く話す彗。
彼女の家に初めて来て、かつあの厳しい父親を目の前にしてこの堂々とした態度……彗のメンタルってどうなってるんだろう。

恐ろしいような羨ましいような気持ちになっていると、ひと足先に家にあがっていた父はダイニング横のリビングでソファに腰をおろした。

そして無言のまま、目の前のローテーブルになにかを叩きつけるようにして見せる。
よく見ればそれは、テープで止めたツギハギだらけの表紙のノート。そう、私が小説を書き溜めているノートだ。


部屋の机の引き出しにしまっておいたはずのものが、どうしてここに。
ヒュッと息が止まりそうになりながら、察した。
私が小説を再び書いていることが、父に気付かれたこと。



「なん、で……」

「昨日塾を休んだらしいな。最近帰りの遅い日も続いていたから怪しいと思って見てみれば……文章を書き足している形跡がある」



やっぱり、昨日塾を休んだことは知られていた。
さらにここ数日の私の行動の変化から疑われていたんだ。



「塾を休んでくだらないものに時間を割いて……おまけに男と遊んで。
そんなに俺にたて突いて楽しいか?そんなに失望させたいのか」



静かな部屋に響く低い声に、全身が萎縮するのを感じる。