学校を終え自宅につく頃には、空はオレンジ色に藍色が混ざり合っていた。
緊張感を漂わせながら自宅のマンションに近づく中、見上げた隣には並んで歩く彗がいる。



「……で。どうして彗がここまでついてきてるの」

「え?だってひなひとりじゃ心細いかなって。だからせめて自宅まで送ろうかなと」

「別に心細くなんてないけど……」



口ではそう言うものの、正直、彗がいてくれることは心強くてありがたい。

今まで父にまともに反抗したことなんてない。それどころか自分の意思すら伝えたことがほとんどない。
そんな中で話し合おうなんえ、緊張と不安で胸がいっぱいだ。

その気持ちを抑え込むように、深く息を吐きながら、胸の前でぎゅっと拳を握った。
……そのときだった。



「ひなの」



突然名前を呼ぶ低い声に驚き顔を上げる。
するとそこには、スーツにコートを着た父の姿があった。その様子から恐らく仕事帰りなのだろう。



「お父、さん……」



心の準備もできないうちに父と会ってしまい、焦って言葉が詰まる。



「こんばんは」



ところがそんな私をよそに、彗は笑顔で明るく父に声をかけた。

まずい、私は彗とのこともお父さんには言ってない。
彼氏がいる、なんて知られたら余計怒りを買うのは想像がつく。



「あの、これは」



どうにか言い訳をしようとしたけれど、うまい言葉が浮かんでこない。
すると父は私から彗へ視線を向け、なにかを言いたそうにじっと見た。



「……いい機会だ。あがってもらいなさい」

「え……?なんで」



彗を?どうして?
その意図がわからずにいる私を置き去りに、父は足早にマンションへと入って行ってしまう。



「……ごめん彗、少しだけ付き合ってもらってもいい?」

「もちろん」



彗に了承を得て、私は父に続く形で彼とともにマンションへと入った。