あの日、私が小説を書いていることを知った父はひどく冷めた目で私を見た。
『なんだこれは』
『……それは、その』
『こんななんの役にも立たないことをしてる暇があるなら勉強しろ。くだらない』
その言葉とともに、ノートはビリビリに破られる。
床に落ちていくページの切れ端に、紡いできた夢や、彗の笑顔が打ち砕かれた気がした。
ひとり残った部屋で、破れたノートを見て失望した。
待っていた現実、父の冷たい目。
それよりなにより、なにも言えなかった自分に失望したんだ。
"小説を書くことが好き"
"認めてくれた人がいて、その人ひとりのためだけでも書いていたい"
"やっとできた、夢なの"
胸の中にあるたくさんの思い。その中のひとつすらも言えなかった。
言っても伝わらなかったかもしれない。
だけど言えないままよりよっぽどよかっただろう。
……悔しい。
弱く、すぐ怯む情けない自分が。
『ねぇ、ひなの好きな気持ちは簡単に奪われて捨てられるもの?』
わかってる。この胸の夢を捨てられないこと。
破られたノートですら、テープでツギハギして、カッコ悪い見た目でも大事にしまっていたくらい。
お父さんと向き合うことは怖い。
だけど彗がこの背中を押してくれるなら。大丈夫と言ってくれるなら、応えたい。
このままの自分じゃ、いやだ。