『これ、ひなが書いたの……?』
『……そうだよ。趣味なの。もういいでしょ、返して』
『いや、最後まで読みたい!超面白いじゃん、この話!』
そのとき書いていたものは、カフェを舞台にした小説だった。
主人公であるカフェを経営する親子を中心に、様々な出来事や人々との出会いを書いたものだった。
まだ書きかけだったけれど、彗は書いてあるところまですべて読み、感想を丁寧に伝えてくれた。
主人公のこういうところが好き、だけどこういう言い方は主人公らしくない、とまるでアドバイザーのような意見まで親身にくれる。
『ひなはすごいよ。0から1を生み出すなんて、絶対簡単じゃないもん』
『……少し文章を書ける私より、現実世界で誰とでも仲良くなれる彗のほうがすごい』
『そんな卑屈な言い方しないの。俺がすごいって言ったらすごいの!そうだ、書き終わったらコンテストに出してみれば?』
そう笑って、褒める言葉をくれる。
私の描く世界を、感情を、理解し共感してくれる。
それが、涙が出そうなほどうれしかった。
だからこそ父に否定され、文字を綴ったノートを破かれた悲しみは深く、夢が折れるのは一瞬だった。
あぁダメだ、理解してもらえない。
私は夢なんて見ちゃいけなかったんだ。
それ以来、私は小説を書くことをやめた。
追いかけることすらできない夢を見ることもやめて、興味をなくしたフリをしていた。
だけど、彗がまだ背中を押してくれている。
『自分らしくいるひなが好きだよ。だからひなも胸を張ってほしい』
私も自分自身を愛せるように、再び夢を見ようと思った。