「それに週に1回は来てくれていて、いろいろ気を揉んでくれてね。
なにかと助かるだけじゃなくて嬉しくて、今日は彗ちゃんとどんな話ができるか、なにをしようか考えるだけで楽しみなの」



うれしそうに笑う千代さんに、心があたたまる。
それと同時に、彗を助けられなかったら千代さんはどうなってしまうんだろうと怖くなった。

残される側の胸の痛み、苦しみ、喪失感を私も知っている。
それと同じ悲しみが、千代さんに再び降りかかるのだろうか。



「……もしも、彗がいなくなってしまったら、どうしますか」

「え?」



あまりにも唐突な問いかけだと思う。
なにを言っているのか、と思われても仕方ない。けれど聞かずにはいられなかった。

そんな質問に対し、千代さんは不思議そうにしながらも少し考えて薄い眉を下げて笑う。



「そうね……ただただ、泣いちゃう。寂しくて苦しくて、神様がいるなら心から憎むでしょうね」



泣いて、苦しくて、憎んでしまう。
それは彗を失ったときの自分の心情にも重なった。
けれど千代さんは、深い悲しみよりも不安げな表情を見せた。



「だけど私の悲しみよりも彗ちゃんの心を思ってしまうわ。優しいあの子は、残していく人を思って苦しむと思うから。
それを想像すると、よりつらい」



残す側の、苦しさ。

残される側の気持ちは、私も知っている。
だけどそうだ。大切な人をおいていくこと、やりたいことを志し半ばで終えること。それらも寂しくつらいだろう。

彗だって、つらいんだ。
少し考えればわかることなのに。自分の悲しみばかりで頭がいっぱいだった。

自分の悲しみより彗の心を優先して思う千代さんは、とても優しい人だと思った。それと同時に、自分の幼さが丸裸になり情けない気持ちだ。



「今日植えるものは、いつ収穫予定ですか?」

「そうねぇ、早いもので1ヶ月後くらいかしら」



1ヶ月後……もともとの未来で言えば、もうそのときに彗はいない。



「じゃあ、その頃また来ます。彗と一緒に……彗が来られなくても、私ひとりでも必ず」



私が彗の代わりになれるなんて思っていない。
それでもただ、笑っていてほしいだけ。

彼のいない未来がくるかもしれない。それを知っているのは私だけだから。
万が一、その未来がきたときに千代さんが悲しみに押し潰されてしまわないように。

私は彗が大切にしている人を大切にしたい。



「ありがとう。楽しみにしてるわね」



私の言葉に、千代さんは深いシワを目元に寄せてうれしそうに微笑んだ。