それから私は授業中以外の移動時間や昼休みなど、ことあるごとに周囲の視線を受けながら一日を過ごした。
普段目立つようなこともない私にとってその視線は非常にストレスで、放課後を迎える頃にはぐったりとしていた。
疲れから机に伏せるように顔をつける私に、教室まで迎えにきた彗は苦笑いを見せる。
「ひな、なんか疲れてる?」
「うん……正直すごく」
彗も私同様噂されていることには気づいているのだろう。
けれど彗は普段から周りから注目されたりと、視線を向けられるのが当たり前だ。慣れているのだ。
「じゃあさ、今日は疲れ吹き飛ばしに行かない?」
「え?」
疲れを吹き飛ばせる場所?
そんなの想像もつかなくて、今日も私は彗に連れられるがまま教室を出た。
本当は今日は夕方から塾のある日だ。だけど私はあまり悩まずに休むことを選んだ。
勉強は大切、だけど彗といられる時間の方が大切だ。
……でもお父さんに知られたらまずいから、あとで塾に電話しておかなきゃ。
そう思いながら彗と一緒に校舎裏の駐輪場へとやってきた。
「よし、じゃあうしろどうぞ」
自転車の鍵を開けながら、うしろの荷台を目で指す彗に私はその意図を察する。
「えっ!つまり、ふたり乗りってこと?やっちゃいけないんじゃ……」
「知らないの?高校生はふたり乗りしてもいいってルールなんだよ?」
「……絶対うそ」
普段自転車に乗らない私でもわかるような嘘をついて誤魔化す彗に、私は呆れながらも言われるままに荷台に座った。
またがる形で座ると、スカートがめくれてしまわないように裾をお尻の下に挟む。
私の準備が済んだところで、彗は前に座るとペダルに足をかけた。
「落ちないようにちゃんと捕まってて」
「う、うん」
捕まってて、というのは自転車にということだろうか、それとも彗にということだろうか。
少し悩んでから、私は勇気を出して前に座る彗の腰に腕を回した。
背中に体をくっつけた瞬間、彗の体がこわばるのを感じる。
あ、間違えたかも。
自転車に捕まるほうが正解だったのかもしれない、とすぐに腕を離そうとした。
けれど彗は私の腕を掴み、再び腰にしっかりと回させた。
「……ちゃんと、捕まってて」
いつもにこやかな彼の、その少し無愛想な言い方は照れているときのものだ。
さっきのこわばりが緊張からきているものだと気づいて、胸の中がくすぐったくなった。
……こういうところ、かわいいんだよね。
愛しさを噛みしめるように、その体にぎゅっと抱きつくと互いの体温が上がるのを感じた。