……とは思ったものの。
登校した私を待ち受けていたのは、クラスや学年問わず様々な人から向けられる好奇の視線だった。
「あれが深山先輩の……」
「あんな人いたっけ?知らなかった」
ひそひそと聞こえてくる声から、昨日の彗との交際宣言が一日経て学校中に広まったのだと知った。
まさかここまで噂になるとは……やっぱり、公言するの早まっただろうか。
いや、でも昨日彗は喜んでくれていたし。迷惑じゃ、ないよね。
自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいて、教室へ続く廊下を歩いた。
すると階段の途中で、ふたりの女子が壁にもたれながらこちらを見ていることに気づく。
白いセーターにロングの黒髪をふわふわに巻いている女子と、グレーのパーカーのみつあみヘアの女子。そのふたりはよく彗にくっついて歩いている子たちだ。
気まずい……。
睨むような視線を感じ、目を合わせられずに前を通り過ぎようとした。
ところがその瞬間
「あれが彗の彼女?うざー」
「全然つりあってないじゃん。早く別れろよブス」
ふたりから聞こえてきたのは、悪意を持った言葉だった。
……そりゃあそうだ。
ふたりの態度からして彗に好意があったんだろうし、私のことは気に入らないよね。
つりあわないなんてことも事実だ。
だってきっと、私が華やかさのある明るいかわいい女の子だったらそんなふうに言われないだろうし。
こういう反応も覚悟の上で、付き合ってることを公言したはずなのに。
やっぱり直接言われると、胸が痛いな。
今すぐこの場から逃げ出したくなるような、そんな衝動を抑えながら鞄の持ち手をぎゅっと握って歩く。
すると突然後ろから、ポンっと背中を叩かれた。
「おはよ、ひな」
「彗……おはよう」
「あれ、どうしたの?元気ない?」
今日も明るい笑顔を見せる彗に、一瞬、今のことを話してしまいたくなる。
だけど……自分の彼女が周りからそう思われてるような人、なんて知られたら失望してしまうだろうか。
そう思ったら言えなくて、私は笑みをつくって答えた。
「ううん、大丈夫。いつも通り」
「そう?ならいいけど……」
彗は気にしてくれているようだけど、それ以上の会話を拒むように私は教室へ向かった。
別に、皆が皆受け入れてくれると思わない。
私だってきっと、あの子たちの立場だったら『あんなのが彗の彼女なんて』と恨めしく思うだろう。
だからこそ不思議だ。
彗が、私なんかを選んでくれたこと。
私より優れた人も、素敵な人も、彗のまわりにはたくさんいるはずなのに。