12月5日、木曜日。

今日も朝起きて、一番に日付を確認した。
そして彗が何日後に亡くなってしまうのか、残された時間はどれくらいなのか、そればかりを考えて制服に袖を通す朝を過ごしている。



「おはようございます、ひなちゃん」



身支度を整えて朝食をとろうとリビングへおりると、今日もにこやかな笑顔の美智子さんが出迎えた。

テーブルに並ぶのは和食の朝食だ。
炊き立ての白米に豆腐とわかめの味噌汁。焼き鮭に厚焼き玉子とおひたし……相変わらず朝から贅沢なくらいのメニューだ。

美智子さんへ「おはよう」と返すと、席につき私は食事を始めた。



「昨日はすみませんでした、ひなちゃんが帰る前にあがってしまって」

「ううん、遅くなった私が悪いから」



昨夜、埼玉を出てからこちらへ戻り家に帰る頃には22時を過ぎていた。
美智子さんは仕事を終えあがっており、父は一泊二日の研修旅行。なので帰宅したときにはすでに家は真っ暗で、私は父のいない日でよかったと安堵したのだった。



「あの……美智子さん、昨日私の帰りが遅かったこと、お父さんには内緒で」



おずおずと言った私に、美智子さんはなにかを察したように笑って頷く。



「わかりました。そうですね、旦那様が知ったらきっと良い顔されませんものね」

「うん。ごめん、ありがとう」



きっと父が知ったら、『そんな遅くまでなにをしていたんだ』と怒るだろう。そのせいで外出制限でもかけられてしまったら、彗のためにさける時間が少なくなってしまう。

すると美智子さんは頬を緩ませて「ちなみに」と声を弾ませる。


「遅くなった理由は、彼氏ですか?」

「え!?」



堪えきれず「んふふ」と笑ってたずねる美智子さんからは、黙っておこうかな、でも聞きたいという気持ちが透けて見える。



「ち、違……わない」



彗のことは美智子さんにも言っていない。
一瞬『違う』と言おうとしたけれど、嘘をついたところで長年母親代わりとして一緒に過ごす美智子さんにはきっとすぐバレてしまうだろう。
どうせそれならと認めた私に、美智子さんの表情はぱあっと明るくなった。



「今夜はお赤飯ですね!」

「絶対やめて!!」



そんな露骨に祝われるのは絶対いやだ。
恥ずかしくて顔を熱くする私に、美智子さんはおかしそうに笑った。

不思議。
以前までだったら美智子さん相手でも彗のことを話すことはできなかった。きっと隠し通そうとしただろう。

だけど今は、素直に認められる。
少しずつだけど、自分の心の中の変化を感じている。