深山彗、という彼は私の同級生でふたつ隣のクラスの男子生徒だ。
赤茶色の髪と右耳にふたつ開いたピアスが一見やんちゃそうに見える彼。
すっきりとした輪郭に、平行二重の目と先の高いツンとした鼻がバランスよく配置されている。
格好良さの中にどこか甘さも感じられる顔つきに、175センチの身長とすらりとした長い足、と歩いているだけで目を引くような外見をしている。
さらにはスポーツ万能でコミュニケーション能力も高い。
愛嬌があり誰とでも話せて仲良くなれるタイプの性格で、いつも人の輪の中心にいる。
私も1年生の頃は同じクラスだったので、彼の明るさで場の空気が和むところを何度も見た。
そんなふうだから先輩後輩、男女問わず人気があり、学年一……いや学校一有名な人だ。
地味で暗い、私みたいな人間とはまるで真逆の存在。
だけど、私と彼には実は接点がある。
「ひな、お待たせ」
校舎3階にある図書室は、文芸書から辞書まで沢山の本が並べられている。
もともと利用者は少ないけれど、今日は特に人がおらず、この時間にはもう私以外誰ひとりいない。
カウンター内に座り本を手にしていると、やって来た彼……彗はへらっと笑って手を振った。
それに対し私は、にこりともせずひややかな視線を返す。
「遅い。今日の作業ほとんど終わったけど」
「ごめんごめん、なかなか行かせてもらえなくて」
行かせてもらえなかった、というのは先ほどの女子たちが原因なのだろう。
彗は困ったように笑いながらカウンター内に入り、足元に鞄を置いた。
自然に私の隣に座り、顔を寄せて手元をのぞきこむ。
「これ、なにしてんの?」
「おすすめの本の紹介文書こうと思って。来月掲示するからひとり1枚書いておいてって、委員長が」
「へぇー」
彗の分の用紙を手渡すと、彼はそれをまじまじと見る。