面会時間ギリギリまで岡澤さんと話をして、病院を出た頃には雨はすっかりやんでいた。
若干しっとりと湿った服のまま、私たちは電車に乗り東京方面へと戻って行く。



「彗の中学時代の話聞いたの、思えば初めてかも」



人の少ない電車内。ふたり並んで座りながらつぶやいた私に、彗は苦笑いをする。



「周りにも親にも、誰にも言ってないから。いじめられてた話とか聞いても楽しい話じゃないでしょ」



たしかにそうだけど……。
いつも明るい彗の過去にそんなことがあったなんて、意外だ。



「いじめた人たちのこと、許せる?」

「俺だけじゃなく岡澤にしたことも考えると許せないね。けど恨むのはいやだ」



迷うことない彗の答えは、彼らしいまっすぐなものだ。



「誰かを恨むことより、ひなといられる今の幸せを噛み締めていたい」



そしてそう笑うと、私の手をぎゅっと握った。

さっき私が指先ひとつ掴んだだけで照れてたくせに。
自分から触れるときには積極的だから、今度は私が照れてしまう。

私の手を丸ごと包んでしまいそうなくらい大きなその手を、そっと握り返す。

……私も、だよ。
彗といられる今の幸せを、噛み締めていたい。



夜道を抜ける電車の中、ふたり手を繋ぎながらそっと目を閉じた。