「友達なんて名乗る資格ない、なんて寂しいこと言うなよ」



その声に振り向くと、廊下には私同様全身びしょ濡れで息をあげた彗がいる。



「彗……」

「いじめは岡澤のせいじゃないよ。でも、俺の心に寄り添ってくれてありがとう」



彗の真っ直ぐで優しい声に、岡澤さんの瞳からは涙があふれ出す。



「ごめんね、彗……ごめん、なさい。あの時助けてくれてありがとう……」



ずっと言えなかったのだろう。岡澤さんはその言葉を口にして、両手で涙を拭う。
さっきまでの強い態度は、その弱さや恐怖を隠すためのものだったのだろう。

彗は病室に入ると先ほど買ったCDを手渡した。



「これ、今看護師さんから返してもらってきた。やっぱり直接返したいと思って」



岡澤さんはそれを受け取ると、涙で濡れた目を細めてCDのパッケージを指先で撫でた。


「これ……そういえば、彗に貸したままだったね」

「うん。借りた物なのにケース割っちゃったから、新しく買い直してきた」

「人から借りた物割るとか、ダメでしょ」



呆れたように笑う岡澤さんに、彗も「本当ごめん」と笑う。
そんなふたりの会話の空気感から、男女の垣根を超えた友達だったのだろうと感じ取れた。



「RED LEAVE、解散しちゃうね……今でもずっと好きだったのに」

「俺も今でもずっとファンだよ。あの頃、いつか一緒にライブ行こうって約束してたけど結局行けなかったね」

「だってこんな早く解散しちゃうなんて思わなかったから。大人になるまで続けてくれるって、信じて疑わなかったのに」



ふたりは名残惜しそうに話す。けれど岡澤さんは穏やかな表情で私へ視線を向けた。



「でも、彗とのことが後悔にならなくてよかった。……ありがとう」


よかった。
もしも彗がいなくなった世界がきたときに、彼女の心に後悔が残るのは悲しいから。
彗と過ごした楽しかったはずの時間まで、忘れたい思い出になってしまうなんて、そんなの私もいやだから。



「どういたしまし……くしゅん!」

「あっ!ひな体冷えちゃった!?」

「大変、タオルタオル!」


面会時間も終了間際の病室には、私たちの笑い声が響いた。