雨……?
不思議に思い空を見上げると、すっかり陽の落ちた空からは次々と雫が落ち、一瞬にして大雨に変わった。
「うわっ、雨降ってきた」
彗は私の頭を鞄で庇いながら、小走りで中庭から病院内へと避難する。
「そういえば今夜は雨の予報だったっけ。……遅くなっちゃうし、今日はもう帰ろっか」
「え……岡澤さんとのこと、いいの?」
「うん。CDもブーケも看護師さんに渡しておいたし、岡澤とはそのうち時間が経てばまた機会もあるよ」
彗は少し寂しげに笑いながら、鞄の中から折りたたみ傘を取り出す。
「付き合ってくれてありがとね、ひな」
「……うん」
腑に落ちないけど、彗がそう言うのなら……。
私たちは病院をあとにして、小さな折りたたみ傘にふたりで入って駅までの道を歩いた。
いいのかな、このまま帰って。
彗がせっかく勇気を出してここまできたのに。
だって、私は知っている。
私が彗を助けられなければ彗はいなくなってしまう。
そしたら『そのうち』なんてきっと来ない。
彗と岡澤さんは仲直りできない。
そんなの、ダメだ。
「やっぱりだめだ……」
「え?なに?」
私は衝動に駆られ、踵を返すと傘の下から走り出した。
「ひな!?」
驚く彗を置き去りに、雨に濡れながら病院までの道を戻る。
普段体育以外で運動をすることもなく、走り慣れていない体はすぐに息を上げる。
それでも急がないと、絶対後悔する。