「はーい。お母さん?どうしたのこんな時間に……」



返事を確認してから、彗はドアを開けて病室へ入る。
するとそこにはTシャツにハーフパンツ姿のショートカットの女の子がいた。

ベッドに座り足には痛々しくギブスをする彼女は、彗を見ると呆気に取られた様子を見せた。


友達って、女の子だったんだ。
あ……だからひとりで来ずに私を連れてきたということかな。
そんなことを思っていると、彗が小さく口を開く。


「岡澤、久しぶり」

「彗……?」



彼女は驚きながら彗の名前を口にした。かと思えば突然枕元にあったぬいぐるみを手に取り、彗めがけて思い切り投げる。

足を骨折しているとは思えないくらい凄まじい速さで飛んできたぬいぐるみは彗の顔面に直撃し、バランスを崩した彼は廊下側に思い切り倒れた。



「わっ、彗!?」

「なにしにきたんだよ、このヒョロ男が!帰れバーカ!!」



彼女、岡澤さんは勢いよく怒鳴りつけるとベッドを降り、片足でぴょんぴょんと跳ねながらこちらへ来てドアを思い切り閉めた。


「え、えぇー……」


ひっくり返ったままの彗の横で、私は絶句することしかできずにいた。



騒ぎを聞きつけ、看護師たちがすぐ駆けつけてきた。
事情を話し詫びた私たちは、とりあえずこれ以上岡澤さんへ接触するのをやめようと病室前を後にして一度病院の中庭へやってきた。

空は夕方からすっかり夜になり、どこかどんよりとした雲が月を隠してしまっている。
外灯で照らされた中、私たちは院内のカフェで買ったコーヒーを手にベンチに座った。



「彗……すごく拒否されてたけど、あれ本当に友達?」

「友達だったはずなんだけどなぁ。いや、でもさすが元ソフトボール部部長、いいコントロールとスピードだったね」



言ってる場合か。
彗はぬいぐるみが当たった頬を赤くさせたまま感心したように言うと、ふと諦めたように笑った。



「……まぁ、なんとなく分かってた反応ではあるんだけど」

「え?」



それってどういう意味?
言葉の真意を問いかけるように彗を見ると、その目は一瞬切なげに細められる。



「中学の頃、同じクラスだった彼女もRED LEAVEが好きでCD貸し合ったりする仲だったんだけど。ある頃からクラスの女子にいじめられるようになったんだ」

「いじめ……」

「無視されたり笑われたり、ひどい時はトイレに閉じ込められたり。そのうち男子も加わっていじめは悪化していった」



見た感じは気の強そうな彼女だけど、いじめる人にとっては関係ないのだと思う。
些細なことが気に入らないとか、いじめなんてそんな小さな理由ひとつで始まるものだ。