学校を出た私たちは、彗の要望でまずは駅前にあるCDショップへと向かった。
「なんのCD買うの?」
「RED LEAVEの結構前のアルバム。うちにも1枚あるけどケースにヒビ入っちゃったから買い直そうと思って」
RED LEAVE……先日解散を発表した、以前から彗が好きなバンドだ。彗はファンになってもう5年になると以前話していた。
アルバムを1枚手に取ると会計を済ませ、その後には駅の東口にある花屋で小さなブーケをひとつ買った。
「ねぇ、CDとブーケ買ってどこに行くの?」
「ちょっと埼玉まで」
「さ、埼玉?」
話が全く見えず連れられるがまま駅に入り電車に乗ると、彗はようやく経緯を話し出す。
「今から行くところは、俺が中学時代まで住んでた街なんだ」
「そういえば彗って中学までは埼玉にいたんだっけ」
「そう。家庭の事情で都内に引っ越すことになって、高校も都立で受験したんだよ」
以前軽く中学時代の話をした際に、そんなことを話していた気がする。
「中学時代に友達にこのCD借りたんだけど、返さないまま卒業して、それ以来会えてなかったから」
「そんなに遠い土地じゃないんだから、さっさと返しにくればよかったじゃん」
「まぁそうなんだけどね、会いにくるのもなかなか勇気がいるというか……」
話すうちに電車は目的地へと着いた。
そこは新宿から一時間、埼玉県の中東部にある小さな市だった。
駅前は道路も大きく栄えており、商業施設もいくつもあるけれど、少し先へ行くと緑が多く自然豊かな街というのが電車から見た印象だった。
「実は友達、足骨折して入院したらしくてさ。同級生からその連絡もらって、お見舞いがてら会いに行こうと思ったんだ」
「それでブーケ……」
駅から10分ほど歩くと、そこには大きな総合病院がある。
元地元ということもあり来たことがあるようで、彗は慣れたように受付で手続きをすると案内された5階のフロアへと向かった。
夕方6時の夕食どきを迎えて忙しなく人が行き交う中、彗は『岡澤千晶』と書かれた病室のドアをノックした。