1日の授業が終わり、16時を過ぎた頃。



「ひな、帰ろ」



付き合ったことを公言したためか、堂々と教室のドアから顔を覗かせ私を呼ぶ彗の姿に、室内に残っていたクラスメイトたちがざわめいた。
周囲の視線を一身に集め、私は体を小さく丸めながら教室を出る。



「……昇降口とかにいてくれればいいのに」

「憧れだったんだよね、こうして彼女迎えにくるの」



浮かれたように笑う顔に、そんな呑気なと思う半面、今までずっとこうして堂々としたかったのだろうと申し訳なくなった。

確かに、彗はずっと『周りに言おう』って言っていたもんね。
ずっと、我慢させてたのかな。それでも無理強いしないところが彗のいいところだ。

彗の優しさに応えるようにセーターの袖からのぞく彼の小指をきゅっと握った。



「わぁ!?なに!?」



その瞬間突然大きな声をあげた彗に、私は驚きすぐ手を引っ込めた。



「握っただけでそんなに驚かなくても……」

「あ、ごめん……いや、びっくりしちゃって」



確かに私が自分から彗に触れることなんて滅多になかったから驚かせてしまったのかもしれないけど……そこまで声あげなくても。

せっかくの勇気を台無しにされた気がして、少しいじけながらチラッと彗を見る。

すると彗は頬から耳まで赤く染めて顔を背けている。
それは、どう見ても照れている様子だ。



「……もしかして、照れてる?」

「うるさい」



自分から触れることはあるのに、不意打ちには弱いらしい。
初めて見る、照れ隠しから少し不機嫌そうになる態度に思わず笑みがこぼれた。