「ねーねー、(すい)。今日これからカラオケ行くんだけど、彗も行こうよー」

「えー?どうしようかなぁ」

「もう、いつもそう言って来てくれないじゃん!最近付き合い悪いよー」



甘えたような言い方で、ピンク色のグロスを塗った唇をとがらせる彼女に、『彗』と呼ばれる彼は笑って流す。
それを見つめていると私の視線に気づいたようで、くっきりとした二重の目がこちらを向いて視線が交わった。

目と目が合った瞬間心臓が止まりそうになるのをこらえて、そっと視線を逸らす。

そしてそのまま彼とすれ違おうとした、その時。彼は思い出したように言う。



「あ。そういえば俺今日、図書委員の当番だった!だからごめんね、カラオケはまた今度」

「えー、図書委員とかどうでもいいじゃん!そんな地味な仕事、地味なやつらにやらせておけばいいって!」



目の前の私がその図書委員のひとりであると認識してなどいないだろうから、私に向けて言ったわけではないのだろう。
けれど何度も口に出される『地味』という言葉に耳が痛い。

確かにそうだ。
染めていない真っ黒なボブヘアに、制服を一切着崩すことなく着用している私は、自由でオシャレな彼女たちと比べるとあまりに普通で地味だ。

いたたまれなくなり、私は早く3人の前を通り過ぎようと早足で歩いて行く。
すると彼は『地味なやつ』と口にしたほうの女子を「こら」と注意する。



「そんなこと言わない。本は心の栄養、って言ってね、自分の心や人生を豊かにしてくれるものなのだよ」

「あはは、彗が変な口調でわけわかんないこと言ってるー」



ふたりを諭すように言う彼の言葉を聞きながら小さく振り返り見ると、同じように小さく振り向いた彼が笑みを浮かべて手を振った。

『またあとでね』

その涼しげな目がそう言っているのをアイコンタクトで察すると、私は背を向け歩き出した。



「あっ、深山先輩だー」

「相変わらずかっこいい。いつもかわいい先輩たち連れて歩いてるよね」

その場から遠ざかる間も、彼を噂する声を聞きながら。