「だから、ひなとは付き合ってないって。昨日の朝のことも……」
「聞いた!?今彗、永井さんのこと『ひな』って言ったんだけど!」
「あっ!いや、今のは……!」
彗も焦っているのだろう。私のために弁解しようとしたのに墓穴を掘ってしまった。
……もうこうなったら仕方ない。
いっそう盛り上がるその場の空気に、私は腹をくくり息をひとつ吸い込むと声を発した。
「そうだよ。私と彗、付き合ってるけど?」
私のひと言に、その場はしんと静まり返る。
そして少しの間を開けてから、その場の女子たちからは悲鳴にも似た声が、男子たちからは歓声が一斉にあがり廊下中を埋め尽くした。
「こらー!うるさいぞ!もうすぐ授業始まるんだから教室入れ!」
さすがにうるさかったのか先生に注意を受け、皆は騒ぎながら各々の教室へと戻っていく。
その場に残った彗は驚きを隠せない様子だ。
「ひな……よかったの?付き合ってることあんなに隠したがってたのに」
「あそこまで騒ぎになってたらいっそ認めたほうが楽でしょ」
ああなったら下手に隠すほうが騒ぎが長引くものだ。
私のその言葉に彗は「たしかに」と納得した。
「むしろ彗は言って迷惑じゃなかった?」
「もちろん。ひなが彼女だって公言できるの、超うれしい」
素直にうれしさを表しながら、へへ、と頬を緩める。
愛らしさのあるその笑みに、その笑顔を守りたいと思った。
そのために、できることをひとつずつ見つけよう。
「じゃあひな、また放課後ね」
「え?」
「昨日言ってたでしょ、俺とこの先の一週間一緒にいるって」
確かに言った。
一週間……正確にはこの5日間で、彗の命を救うためのきっかけを見つけなきゃいけない。
きっとそのために、このやり直しの時間が与えられたのだから。
だから私はできるだけ彗のそばにいて、そのきっかけを見つけなきゃ。
「今日バイトも休みだし、行きたいところがあるんだ。だからついてきてもらってもいい?」
「行きたいところ……?いいけど」
彗が行きたいところなんて想像もつかないまま頷くと、彼は手を振り教室へ向かって行った。
いつもならまっすぐ帰るか図書室に寄って勉強をしなきゃいけない。
だけど今は、そんなことよりも彗との時間を優先したい。
父に叱られても、厳しく言われてもいい。今は彗のことのほうがなによりも大切だから。