昇降口から離れた私たちは、とりあえず、と校舎3階にある図書室へやってきた。
朝の図書室は誰もおらず、がらんと静まり返っている。
「ひな、落ち着いた?」
彗の言葉に、私はハンカチで涙を拭いながら頷く。
「びっくりした。まさかひながいきなり泣くとは」
「ごめん、色々昂っちゃって……」
まさか、自分が人前でこんなに泣くとは。私自身も意外だった。
きっと赤くなっているだろう鼻を隠すようにハンカチを両手で持つ私に、彗は安堵したように笑いながら頭を撫でた。
優しいその手が安心する。
もうこんな日は二度と来ないと思っていたからこそ、余計に。
彗にちゃんと謝らなきゃ。
「……昨日はごめんなさい。彗に、八つ当たりみたいなこと言った」
まっすぐ目を見て謝った私に、彗はまた目を丸くして驚いた。
かと思うと、大きなため息とともに私にもたれかかるようにして抱きしめた。
「はー……よかった、別れ話されるかと思ったー……」
「えっ!なんで?」
「だって昨日もメッセージ送ったのに無視するしさ、顔合わせた途端泣かれたらなにか思いつめてるのかもとか考えちゃうじゃん」
安堵から脱力してしまったのだろう。どこか声が弱々しい。
だけどこんなに不安になるほど、昨日から私のことを考えてくれていたのかな。
申し訳ない反面うれしいと思ってしまう気持ちを素直に表せず、彗の胸に顔をうずめる。
制服越しに、彼の心臓の音がドク、ドク、と伝わってきた。
生きてる。ちゃんと、彗がここにいる。
その存在をしっかりと掴むように、私も彗の背中に腕を回す。